連載小説(28)漂着ちゃん
何が正しいのかは分からない。起こってしまったことは元には戻せない。
そもそもこのような自体を引き起こしたのは、未来の私が本来は死者である父に永遠の命を与えてしまったからだ。
AIとは、人工物に過ぎない。AIのすべてを否定するわけではない。しかし、今の私にはAIとしての父を作り出したことにより、自然の摂理に反したことをしてしまったことを後悔する気持ちがある。
所長がいなければ、ナオミと出会うことはなかった。
所長がいなければ、ヨブは生まれなかった。
所長がいなければ、エヴァと出会うことはなかった、
所長がいなければ、マリアは生まれなかった。
そして、所長がいなければ、私は自殺していたことだろう。
こうやって、AIの父の「おかげ」を並べると一見いいことずくめに見える。しかし、苦しみの源にもなっている。
私は今の父を、一時休止しようと考えた。最初は今すぐ消そうと思ったが、そこまでする必要はない。止めて凍結してしまえば、結果は同じことだと。
呼び起こしたくなれば起動させれば良いし、もう必要ないと思ったら消してしまえばいい。
私は父である所長のところへ出向き、AIの電源をオフにする決意を固めた。しかし、収容所の地下室の仕組みは複雑で私には良く分からない。口実を作り、何度か地下室を訪れて観察しないことには、所長AIの止め方が分からない。そもそも地下室へゆく大義名分もない。
いたずらに時間が過ぎていったある日、護衛官を通じて所長のもとへ来るようにという連絡があった。今回は決められた日時に必ず出頭するように、とのことだった。
おそらく、私の意志決定をその時までにせよ、ということなのだろう。タイムリミットは刻々と迫ってきた。私の意識は、どうやってAIの動きを止めたら良いかという一点に集中していった。次に出会った時に、なんとか一気に方を付けたかった。
…つづく
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