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連載小説(29)漂着ちゃん
所長と出会う日になった。私は何度も1人でシュミレーションを重ねた。所長というAIを止めるために。
「じゃあ、いってらっしゃい」
ナオミは心配そうな表情を浮かべながら言った。
「あぁ、行ってくる。もしも…」と言いかけたとき、ナオミは私をさえぎって言った。
「信じてる。大丈夫よ。なるようにしかならない。ただ、無事に戻ってくることを信じています」
「ありがとう。ナオミとヨブを必ず守るから」
私はナオミと視線を合わせずに扉を開けた。
扉を開けると、前と同じように、二人の護衛官がいた。無言のまま、両脇をかためられて、私は地下室へおりていった。
「では、ここでお待ちしております。ごゆっくり」
私は地下室へ1人で入っていった。少し身震いしながら、奥へ向かった。
「おお、やっと来たか」
所長の声が聞こえるや否や、私は「あっ」と思わず声を挙げてしまった。
そこにはエヴァが立っていた。
「お久しぶりですね。あの日のとき以来ですね」
「どうしてここへ?」
「どうしてもなにも、所長から出頭を求められたものですから」
「これで二人そろったか。君たちがどういう決断をしたのか聞きたいと思ってね。1人ひとりから考えを聞いても良かったのだが、やはり二人そろったところで考えを聞かなくては、と思った次第だ」
「やられた」と思った。所長と私が一対一で話すのと、エヴァがそこに加わるのでは話が変わってくる。額から滝のような汗が滴り始めた。
エヴァはこちらを見て、ニコっとしたあと、語り始めた。
「所長、私はこの方とマリアとともに、この時代で生きていきたいだけです。ナオミさんとヨブくんには、この時代から出ていってもらいたい。私はなにも悪くありません」
「前と同じ主張だな。それはそうだろうな。自ら子供を産めないと思ったからこそ、ナオミと我が息子が結ばれ、ヨブが生まれたが、いまやエヴァさんにはマリアという女の子がいる。自分の子供がいれば、それ以外は邪魔ということだね」
「所長、そういう言い方はどうかと思います。私だってナオミさんにも、ヨブくんにも恨みがあるわけではありません。彼女たちも運命に翻弄されてきたわけですから。誰が悪いという話ではなく、私はただ自分の幸せを一番に考えたい。それだけです」
「わかりました。お気持ちは私にも理解できます。あなたはどう思うかね。ヨブくんとマリアちゃんの父親として」
「私は、、、私は一番悪いのは私だと思っています。未来の私は、所長、あなたというAIを作り出してしまったのですから。そもそもの発端は私に起因しています」
「つまり、あなたは、私を作り出したことを後悔している。そう思ってもいいかな?」
「後悔。後悔とおっしゃられると違和感がありますが。私が生身の身体を持つあなたをそのまま葬っていたならば、今の私は存在しませんし、エヴァさん、ナオミ、ヨブ、マリアちゃんも存在しなった。その事実を否定したくはありません。ただ、あなたを作り出したことで、自然の摂理に反してしまいました。人間というものはやはり、肉体と精神とに分離できるものではなく、両者が一体となってはじめて存在しうるものなのではないかと」
「つまり、あなたは今、自己矛盾で苦しんでいる、ということを言いたいわけだな。私がAIになったことで、あなたは自殺せずに済んだ。しかし、今は私という存在が非常に邪魔になった。だから、私をできることなら消してしまいたい。そうなんだろう?」
すべてが所長には見抜かれていた。おそらく、私がここへ1人で来たなら、自分が消されてしまうことを恐れたのだろう。だから、エヴァもここへ呼んだのだろう。私には今、なにもすることが出来なかった。
「やはり、そうだったか。私を消してしまうためにここへやってきたんだね。私はそんなに簡単には…」
所長の言葉が急に止まった。
左を見ると、エヴァが微笑んでいた。
「どうやら、うまくいったようね。これで今後所長から何か言われることはないわ」
…つづく
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