連載小説⑳漂着ちゃん
収容所所長のAIが話し始めた。
「あなたには、ナオミとヨブ、そしてエヴァとマリアがいる。どちらかを選ぶならそれでいいのですが、みんな一緒に住むことは許されません。のちのちのトラブルのもとにもなりますからね。そこで、私の提案ですが、あなたが二人いれば良いのではないか、という結論になりました」
私が二人?
いったいどういうことだ?
「この収容所の現在の技術を使えば、もう一人のあなたを作り出すことができます。ただ、同じ時代に同じ人間がもう一人いると、いろいろとややこしいことになります、、、だから、、、」
「私には、もう一人の私を『作り出す』という意味が分かりません。私を二つに分けたって、私は一人のままです」
「二つに分けるんけじゃあ、ありませんよ。あなたの細胞から、もう一人のあなたを作り出すのです。この収容所の技術があれば、あなたの細胞1つからもう一人のあなたを作り出すまで、およそ1ヶ月もあれば十分です。そして、あなたの記憶を電子化したメモリーチップを脳内に埋めこめば、全くあなたと同じ人間が生まれます」
「本当にそんなことが可能なのでしょうか?仮にもう一人の私が生まれたとして、、、。そう言えば、さきほど、同じ人間がいると、なんとかおっしゃっていましたが、、、。」
「一人のあなたは、弥生時代に、もう一人のあなたは、この時代にとどまるか、それともAge 3500へ飛んで頂こう、と考えています」
「タイムマシンで?」
「そういうことになりますね」
「私はタイムマシンには乗りたくあありません。私をコピーしても、もう一人の私もおそらく、タイムマシンに乗ることをためらうことでしょう」
「それはそうですね。あなたも、この時代にAge3500からやってくるとき、さんざんごねましたからね」
「私が?私がその、Age3500から?私が未来からやって来たと所長はおっしゃるのですか?」
「お忘れですか?あなたは、私の息子なのですよ」
「私が所長の息子?そんなことはあり得ない。私はこの現在の世界に生まれ、そしてこの世界で育った。未来からやって来たんじゃない!」
「そうおっしゃるのなら、この世界に生まれたという、なにか確かな記憶なり証拠がありますか?あなたの生い立ちをよく思い出してご覧なさい。そもそも、あなたはなぜ自殺しようと思ったのですか?」
…つづく
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