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英文法 | 修理する必要があるに関する一考察
この時計は修理する必要がある
「この時計は修理する必要がある」と日本語を英語に訳すとき、次のような言い方が可能です。
①This watch needs to be repaired.
あるいは、
②This watch needs repairing.
「repair」という動詞は「~を修理する」という意味なので、①のように「be repaired」と受け身形にするのは自然です。というのは、「この時計」は「修理されるもの」であって、時計自らが自分自身のことを修理するわけではないからです。
同様に考えれば、②は「~ing形」であり、不自然と言えば不自然ですね。
だから、「This watch needs being repaired.」としたいところですが、このような言い方は一般的には誤りであるとされています。なぜでしょう?
一般的な教科書的な説明によれば、「repair」という原形(不定形とも言う)を「repairing」という「~ing形」(動名詞)にかえると、「修理」という名詞のように感じられるため、あえて受け身形にする必要がないから、ということになっています。
このような説明に一応納得はするのですが、別に「being repaired」(修理されること)という名詞として扱うことに、大きな不都合があるとは思えません。
同じ形なら共通点がある
異なる形なら相違点がある
ここからは個人的な意見です。
「~ing形」は、一般的に「~している」という意味を表す「進行形」(現在分詞)と、「~すること」という意味を表す「動名詞」という用法があるとされています。
しかしながら、「同じ形である以上は共通する何かがある」はずです。
動名詞と現在分詞という~ing形に共通することはなんでしょう?
また「~すること」いう意味では共通であるはずの「不定詞」(の名詞的用法)と「動名詞」という異なる形があるのはなぜなのでしょう?
ing形のこころ
思うに、「現在分詞としての~ing形」と「動名詞としての~ing形」とに共通するのは、(スナップショット的な静止画ではなく)「動画的な臨場感」という点が共通しています。
私たちが「~ing形」を使うとき、現在分詞にしろ動名詞にしろ、「~している」という動画が脳内に流れています。
不定詞と動名詞との違い
たとえば、「百聞は一見に如かず」。
この諺は二通りに訳すことができます。
③Seeing is believing.
④To see is to believe.
③も④も「百聞は一見に如かず」の意味ですが、そのニュアンスは異なります。
「~ing形」は動画的なイメージですから、③の文は
「見ていることは信じていることなのだ」というニュアンスになります。
ですから、何かを「現に今見ている状態」が想起されます。
それに対して④のように「不定詞」を用いると、「『これから~する』という状態」が想起されます。すなわち、「(これから)見れば、信じられるだろう」という感じになります。
④の文のニュアンスをくっきりと表すのならば
If you see (it), you will be able to believe (it).
といった感じになるでしょう。
動名詞と不定詞の使い分け
一般的に「to + 動詞の原形」という不定詞には、「これから~する」という未来志向的なニュアンスがあり、「~ing形」という動名詞には、「現に~している」という動画的なニュアンスがあります。
動名詞も不定詞も、ともにとることができる動詞を使った例文で、両者の違いをハッキリさせてみましょう。
⑤ He stopped smoking.
⑥ He stopped to smoke.
⑤は「彼は煙草を吸うことをやめた」
⑥は「彼は煙草を吸うために立ち止まった」
⑤は「~ing形」を使っていますから、「煙草を現に今吸っている状態」が想起されます。そして、それを「stop」するわけですから、「煙草を吸うことをやめた」あるいは「禁煙した」という意味になります。
それに対して、⑥は不定詞(to + 動詞の原形 [不定形])を使っていますから、「これから煙草を吸うという状態」が想起されます。それゆえに「彼は(これから)煙草を吸うためにstopした」という意味になります。
⑦ Remember to mail the letter.
⑧ Remember mailing the letter.
⑦は「(これから)その手紙を投函することを覚えていてください」。
⑧は「その手紙を投函している(していた)ことを思い出してください」。
あらためて「時計を修理する必要がある」を考えてみよう!
ここで、あらためて「この時計は修理する必要がある」という状況を考えてみましょう。
私たちが「修理している最中」ということを思い浮かべるとき、「誰かがこの時計を直している状況」が動画として脳裏のスクリーンに映し出されます。
「~ing形」には、「~している」というニュアンスが張り付いている。つまり、「修理している」と状況を思い浮かべるとき、「人がこの時計を修理している」。念頭には「人」が介在します。
「This watch needs to be repaired.」と言うときには、「これから修理されたという状態をこの時計は必要としている」なので、修理前と修理後の時計を思い浮かべればいいので、修理する人のことを脳裏に思い浮かべる必要はありません。
しかしながら、「~ing形」を用いるときには、「今、現に~している」状況なので、修理している人のことも自然と思い浮かべることになります。
だから、
「This watch needs repairing.」
という表現は、
「This watch needs somebody's repairing.」というニュアンスでしょう。
しかしながら、「somebody's」は一般的な漠然とした人間を指しますから、あえて書く(言う)必要がなくて、省略されて「This watch needs repairing.」というような簡潔な表現になるのでしょう。
「This watch needs being repaired.」と言うことができないのは、(「~ing形」を用いているにも関わらず)「現に今~している」修理している人が、文中から消えているからです。敢えて人を表に出すのならば、「This watch needs being being repaired by somebody」というように、単純な受け身ではなく「受け身進行形」にした上で、さらに「by somebody's」という行為者を表す必要があります。
しかしながら、非常にまどろっこしいので、「This watch needs」のあとには、「『受け身を含む動名詞』は来ない」ということになったのだろうと、私は思っています。
結びにかえて
本稿では、「この時計は修理する必要がある」という意味を表す英語表現について、私なりの考察を書いてみました。
英会話あるいは受験英語対策としては、
This watch needs to be repaired. 及び
This watch needs repairing. という表現が正しくて、
This watch needs being repaired.ということは誤りである、
とだけ覚えておけばいいでしょう。そして、このような指導法のほうが、英語を生徒に教える先生としては良いだろうと思います。
私が本稿に書いたようなことは、英文法マニアにとっては非常に面白いテーマなのですが、本稿を読んでくださった人の中でどれだけ「面白い!」と思ってくださる方がいるのかは、私にはわかりません。おそらく「くだらない!」(あるいは「時間の無駄だ!」)と思う人のほうが多いだろうと思っています。
しかしながら、私は、この記事のようなことを書きたくてnoteをはじめましたので、ひとりでもこの記事を読んで「面白い!」と思ってくださる人がいたらいいな、と思っています。
本当はこの記事では、
「I have a lot of homework to do.」及び
「I have a lot of homework to be done」という表現について、英文法の枠内だけにとどまるのでなく、ドイツ語の「zu 不定詞」(英語の「to + 動詞の原形」に相当)と比較した考察も書くつもりでいました。けれども、煩雑になるので、英語とドイツ語との比較は、別稿として後日書いてみたいと考えています。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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