連載小説⑮漂着ちゃん
「所長、ナオミとあの人との間に男の子が生まれたんですか?」
彼を収容所にいるナオミに引き渡して1年が過ぎた頃、私は所長に呼び出された。
自分であの人とナオミをくっつけたとはいえ、少し切なさも覚えた。
「エヴァさん、君もあの男のことが好きだったんだよね。でも君は、それがたとえナオミであったとしても、あの男の子どもの顔が見たかった」
「はい、考えに考えた上での決断でした。私は子どもを産むことができない体ですから。たとえ自分の血が通っていなかったとしても、あの人の子どもの顔が見たかったのです。そして、私の望み通り、二人の間に子どもが生まれた。嬉しい気持ちも大きいのですが、いざ、生まれると、とても複雑な気持ちになりました。愛する人の子どもに、私の血は一滴も含まれていないのですから」
所長はゆっくりと、煙草を吹かしながら言った。
「ここに漂着するのは、女の子ばかりで男が1人もいない。だから、弥生王朝を復興するためには、どうしても男が必要だった。君がエヴァなら、あの男がアダムということになるな」
「けれども、そのエヴァは偽物だった。本当のエヴァはナオミになりましたね」
「まぁ、しかし、君が『漂着ちゃん属の祖』であることは間違いない。アダムを助け、ナオミという女に託して、子孫を1人増やすことに成功したのだから」
「そう言っていただけると、少し救われたような気持ちになります」
「で、どうする?ナオミとあの男、そしてその子どもに会ってみる気持ちはないかね?」
「『会いたいけれど。会いたくない』というのが、正直なところです。ナオミとその子どもを見ると、やはりつらくなります。もし会えるなら、あの人と
だけ会いたい。所長はそれを許可してくださいますか?」
「ここの掟では、妻帯者と未婚の女が会うことは禁止されている。しかし、君の功績はとても大きい。いま、特例として、君とあの男が会うことができるように考えているところだ」
「一度だけでいいんです。もう一度だけあの人に会いたい。よろしくお願いいたします」
女としての役割は、子孫を作ることだけだけではない。しかし、それが出来ない体であることは、私が女として無価値なものなのではないかと、自責の念に駆られていた。
…つづく
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