連載小説(21)|漂着ちゃん
私が死のうと思った理由。
あの日、私は死にたいという一心で、雪山を歩いていた。しかし、すっかり忘れていた。私はAge3500からこの世界へやってきたのだった。
人間性というものが、すべて電子化されることに辟易したからだ。そういう私も、あらゆるものを電子化する仕事に携わらざるを得なかったのだ。
こんな地獄のような時代を生きるより、人間が地に足をつけて生きていた太古の時代に生きたいと願ったのだった。
「思い出してきたかな?あなたはこの時代の人間ではなく、Age3500に生きていた人間だったのです」
「あなたは私を電子化して、今の私を作り出しました。もともと生物学上の父親は私ですが、電子化した私を作り出したのはあなたです。親孝行なあなたは、私を電子化することで、私に永遠の命を授けた。その意味では、あなたこそが私の産みの親だと言える」
私は自分の想念の中に沈みながら、所長から聞く話を聞いていた。次第にその境界線があいまいになっていった。
「私が肉体を持っていた頃、私はあなたの生物学上の父親だった。私の肉体が滅んだとき、あなたはAIとしての私の産みの親になった。私を作り出したあなたは、タイムマシンで弥生時代に逃れようとした。しかし、その過去への旅の途中、あなただけどうしたわけか、タイムマシンから落ちてしまったです。タイムマシンは一旦動き始めたら、止めることはできません。あなたがAge3500から連れていった数百名の女性だけが、弥生時代へと送られました」
「Age3500からあなたを観察していた私は、あなたがこの時代に落ちてひとりで死のうとしていることを知りました。私は父親としてあなたをどうしても救いたくて、あなたがたどり着いたこの時代の時刻よりも数年前のこの時代に未来からやって来ました。そして、あとからやってくるあなたを待っていたのです」
「どうやってあなたに生きる希望を与えようかと考えた私は、ちょっとしたイタズラをしてみました。私は自分のコピーを作り、もう一人の私と必要な機器を揃えて弥生時代に送り、凍結技術によって、あなたが送りこんだ女たちを一人一人あなたの目の前に送る計画を立てました。あなたは私の策略通り、二人の女性に子どもを産ませました。私はあなたが誰よりも責任感の強い人間だということを知っています。妻や子どもがいれば、あなたは自殺を考えることはもうないだろうと」
「ただ、ひとつの時代にあなたの子孫がいても、多少のズレはあっても滅びるときはほぼ同じ時期になることでしょう。ですから、私は『保険』をかけたのです。あらゆる時代という時間軸にあなたを存在させればいいだろうと」
私は、いつの間にか、所長の話を上の空で聞いていた。
…つづく