連載小説⑦漂着ちゃん
私はエヴァとともに、収容所へ向かうことになった。私が外へ出るのは、数日ぶりのことだった。
しかし、あの日、最後に見た光景とは似ても似つかぬものだった。
「エヴァ、ここはどこなんだ?私が最後にいた場所とは違うようだが…」
「ここの細かいロケーションはお伝えすることはできません。『漂着ちゃん』のことは機密事項なのです。いま言えるのは、『日本のどこか』ということだけです」
「それもそうですね。『漂着ちゃん』が古代人にしろ、未来人にしろ、大騒ぎになることは間違いない。しかし、『日本のどこか』というと、『いい日旅立ち』を想起してしまうよ」
「『いい日旅立ち』というのは何でしょう?」
「有名な歌だよ」
「左様ですか。ではこちらの後方の席におかけ下さい」
…聞いておいてスルーか…
エヴァの視線の先には、今までに私が見たこともないような形の車があった。
「驚いた!これは未来の車か?」
「いえ、ここのコミュティの研究者が技術を結集してつくった最新車です。超電導で動きます。この地のように、極寒の場所では実験も進みやすいのです」
「エヴァ、よく分からないのですが」
「まぁ、簡単に言うと、電気抵抗がない状態にするためには、絶対零度に近いことが望ましいのです。現在では、素材によって超電導になる物質が発見されていますがね。極寒の地のほうが開発に向いていたのです。これも極秘技術なので詳細は言えませんがね」
極秘と言う割には、エヴァは饒舌に語った。どうやらここは、私がもともといた所よりも先進的なようだ。もしかしたら、国家ぐるみの極秘プロジェクトがここでおこなわれているのかもしれない。
私が後部座席に座ると、手枷足枷の他に目をおおわれた。
「すみませんね。規則なものですから。小一時間ほど我慢してくださいね」
「わかった」
私はエヴァの言うことに素直に従った。私もエヴァに対する警戒心が薄れてきたのかもしれない。
この車の乗り心地は、あえて例えるならば新幹線のような感じだった。無論、新幹線よりもさらに静かであったが。
車中で、エヴァと私はなにも語ることはなかった。
「はい、そろそろ到着します。とりあえず目隠しと枷を外しますね」
オートマティカルに目隠しと枷が外された。どこかのトンネルの中にいるようだった。しだいに明るくなってきたと思ったら、目の前には立派な建物が見えてきた。
「あそこが収容所です」
エヴァが収容所の守衛に許可証を見せると、私たちの車は中に入ることができた。
「では一緒に降りましょうか?」
私は車を降りると、エヴァのあとについていった。
「この収容所の53階に、あなたが救った『漂着ちゃん』がいます。あのエレベーターに乗れば、1分程度でたどり着きますよ。一緒に行きましょう」
エレベーターは超高速で動いたので、慣れない私には少し怖かったが、あっという間に53階に着いた。
扉が開くと、私の目の前に、あの『漂着ちゃん』がすでに立っていた。
…つづく
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