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連載小説(23)漂着ちゃん

「ただ、なんでしょう?」

「ただ、私は収容所の所長をしています。心の底では、人類全体のことよりも、あなたの幸せを大切にしたい」

「しかし、それは立場上出来ないと言うことですよね」

「そういうことです。だから、もしもあなたが二人の女と二人の子どもと一緒に生きることを望むならば…」

「望むなら、なんでしょう?」

「幸せを望むなら、一緒に生きるがいい、と言いたい。ただ、私の目が黒い間は、町の掟は守ってもらわねば困る」

「どういうことでしょう?所長が生きている間は、町の掟を遵守しなければなりません。しかし、今のあなたはAIです。いわば永遠の命を手にしているじゃありませんか?だから、私はどちらかを選択しなくてはなりませんね」

「そうなのだが、私がいなくなれば、どうなるかな?」

「いわば、町の掟であるあなたがいなくなれば、ということですか?」

「そうだ。私はAIに過ぎない。肉体を持たない。私を消去するなんて、肉体を持つ者よりたやすいのではないか?」

「それほど簡単でしょうか?あなたは他の時代にも同時に存在しているのでしょう?この時代のあなたを消したとしても…」

「片っ端から消してしまえばいい。というか、過去の歴史というものは、未来から誰かが行った時点で、複数生まれてしまうものなのです。だから、今の私が消えたとしても、パラレル・ワールドの私には、何の影響もない。あなたが目の前の私を消せば、この時代の私は完璧に消えます。あなたが他の時代を旅しない限り、あなたと私は未来永劫、出会うことはありません。どうしますか?私を消しますか?それとも、あなたはあなたのコピーを弥生時代に送り、あなた自身はAge3500に戻りますか?」

 不思議なことに、私は逡巡していた。この地下室に来る前の私だったら、何もためらうことなく、所長を消去していたことだろう。
 しかし、考えてみれば、すべてが自分の引き起こした出来事であることを思うと、所長を消してしまうことに躊躇いを覚えたのだった。


…つづく


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山根あきら | 妄想哲学者
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします

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