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エッセイ | 記号接地
ChatGPTやGeminiなどの大規模言語モデルの文献を読んでいると、「記号接地」とか「言葉の接地」という言葉に出会います。
「接地」という考え方自体は、ソシュールの伝統的な言語学の頃から存在するものです。
たとえば、「ネコ」という言葉は、「neko」という音と実際の「🐈️」という動物が「neko=🐈️」と等号で繋がれることで意味を持つものです。
抽象的な「悲しい」という言葉でも、「kanashii」という表記や音と、「😭」という映像やイメージと結びつくことで、「悲しい=😭」と理解されてはじめて意味を持つものです。このように、言葉が具体的なイメージや事象・経験と結びついていることを「記号接地」(言葉の接地)と呼びます。
従来の言語学では、具体的なもの・イメージと言葉が結ばれることが必要だと考えられていました。今でも基本的には、「言葉の接地」が必要であると考える言語学者が多いです。
けれども、何か尋ねればそれなりの返事をChatGPTには、言葉を接地する身体はありません。そもそも言葉の意味すら考えていないはずです。だから、言葉を操るには、接地は必ずしも必要ではないのではないか、と私は考えているところです。
英語でも日本語でも、言葉が誕生したときには、具体的なモノが身体を通じて理解されることが必要だったことでしょう。しかし、言葉が増えてくるにつれて、実際には見たことも聞いたこともないことでも、言葉として理解できるようになりますね。
原子や分子を目で見たことがなくても、ボールとか饅頭とかを思い浮かべれば、接地は可能です。しかし、それは人間が言葉を理解する場合の話です。
おそらくAIがやっていることは、膨大なデータから、確率的に次に続く言葉を弾き出して繋げていくことでしょう。大量のデータがあれば、文法を抽出しなくても文章の繋ぎ方のパターンを学習することができます。
考えてみれば、人間だって、必ずしも具体的なことを思い浮かべずに思考することはあります。
「1+2=3」という式を見たとき、リンゴ🍎やボール⚾を思い浮かべているとは限りません。単なる記号として理解している場合も多々あります。
2分の1と3分の1の足し算もルールに基づいて計算するだけです。
ただ、人間の場合は、具体的なイメージがわかないと言葉を理解することができない場合もあります。しかし、「言葉の接地」がなくても、「言葉の意味」すら理解できなくても、文章自体は生成する事は可能でしょうね。
身体を持たない、つまり接地のない言葉。AIが今までに人間が書いたことがない「身体表現」を、あたかも経験したかのように書けるようになったら、ますます人間の書いた文章とAIの書いた文章との判別が難しくなりそうです。
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