短編 | 親子カップ麺
数年ぶりに実家に帰った。予告なしで。
「あら、まぁ」母はひどく驚いていた。
「前もって一本電話してくれたらよかったのに」
「あら、どうしよう。何も用意していないわ。ご飯は食べたの?ごめんね、これしかないわ」
差し出されたのは、カップ麺のそば2つ。
「ちょっと待っててね」
母はお勝手に向かって、やかんに水を注ぎ、ガスレンジに載せた。
ぷゅーっという音が聞こえた。
「蓋を開けておいて」
お湯を注いでくれた。つけっぱなしのテレビから歌が聞こえた。
「最近の紅白は知らない人ばかりね」
「まぁ、そうだね。紅白を見て初めて知る歌手もいるね」
一曲終るごとに、ふたりでそばをすする音が響いた。ぼっーとテレビを見ている間に「ゆく年くる年」が始まった。
ゴ~ン
「明けましておめでとう」
小さな声で母が言った。
「あら、もう帰るの?ゆっくりしていったら?」
そのまま、実家をあとにした。
アパートについた。一人でカップ麺のそばを食べた。さっき食べたそばと同じ。腹は満たされたが、今度はあまり美味しいとは思えなかった。
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