短編 | 葬送
「最後の日って、こんなふうに来るんだね。この前まであんなに元気だったのにね」
叔父が亡くなった。突然の訃報に、妹も私もとても驚いた。
小学生の頃、父と母は共働きだったから、私は仕事が早く終わる叔父の家で過ごすことが多かった。間違いなく、小学生までにいちばん多くの時間を過ごしたのは叔父だった。お父さんでもあり、友だちでもあった。
叔父は語学や数学が好きで、私が訪ねたときも、いつも専門書や洋書を読んでいた。私は叔父のとなりに座って、一緒に本を眺めて過ごしたものだった。
「5! は5×4×3×2×1だけど、5!!って何だろう?」
子どもだった私は、「5!!は1つ飛ばしのかけ算じゃないかな?」と伝えた。
「頭いいねぇ。そっか~、そうだね」
叔父はとてもほめてくれた。役に立てたようで嬉しかった。叔父はニッコリと笑った。これが私がはじめて見た笑顔だったと記憶している。
「正太くん、どっか今度遊びに行こうか?どこに行きたい?」
「東京タワーに行きたい」
「スカイツリーじゃなくて?」
「うん、東京タワーがいい!!」
父や母の仕事が忙しかったから、私が甘えたのはいつも叔父だった。
こんなこともあった。
父兄の授業参観日。その日、両親はどうしても来られそうになかった。それを知った叔父は「お父さんの代わりに、私が行こうか?」と言ってくれた。
けれども私は「叔父さんはお父さんじゃないから」と言って断ってしまった。叔父が悲しそうな顔をしたことをよく覚えている。
授業参観の間、私だけ先生と図工の製作作業をした。やっぱり叔父に来てもらえば良かったと後悔した。
学校が終わり、いつも通り、叔父の家に行ってその事を話したら、黙って抱きしめてくれた。本当のお父さんだったら良かったのに。
最後に安らかに眠る叔父の胸元に花を手向けたとき、今までにないほどの涙があふれて止まらなくなった。
享年50歳。早すぎるよ。しかも自死なんて。
#シロクマ文芸部
#葬送
#自死
#叔父
#最後の日
#短編小説
#マルクスアウレリウス
#自省録
#quasi_ultima