『太宰治は、二度死んだ』(創作大賞感想)
今回取り上げます作品は、私が敬愛してやまない作家、南ノ三奈乃さんによる渾身の作品『太宰治は、二度死んだ』です。「創作大賞2024」の「恋愛小説部門」にエントリーされた超大作です。
ところで皆さん、昭和の文豪って色んな方がいますけど、太宰治って人、ご存知ですか? 私、昨日、インターネットのヤホーで「太宰治」を調べたんですよ……って、ナイツかっ!
すみません、今回はおふざけモードなしで書く予定ですので、ボケはこれっきりにします。
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太宰治と言えば、「人間失格」「走れメロス」「斜陽」など、日本の文学史に燦然と輝く名作を残した文豪として有名です。しかも、誰でもこの代表的な三作のタイトルぐらいは聞いたことがあると思います。もちろん、読んだことがある人も多いと思います。何気に、これだけでも本当にすごいことなんです。それだけ有名な国民的な文豪ですから、当然のように「変わり者」に違いありません。
太宰治の生涯につきましては、ある程度のことでしたら、調べようと思うと誰でも容易に文献は見つかるでしょう。ほんのさわりだけなら、ネットにも情報は溢れています。小一時間もネットと睨めっこしているだけで、誰でも太宰治について色んなことを知ることが出来るのです。
そんな浅い知識を拾い集めただけでも、太宰治が生涯に三度も心中事件を起こしたことを知るでしょう。しかも、先の二回は未遂に終わり、三回目にして「ようやく」やり遂げたことも知るでしょう。ある意味、それらは「歴史的事実」として……つまり、「史実」というタグを貼られて、伝えてられているものです。
でも、それは「チャプター」を知っているだけで、「理解」ではないのです。読んだことはなくても、「人間失格」というタイトルの本を知っているのと同じです。もう少し踏み込んで、いつ、誰と、どのような理由で、どういった手段で心中を図ったのかを調べたところで、せいぜい「あらすじ」を知るぐらいの知識しか得られません。
突き詰めて考えると、「理解する」ということはとても困難な作業なのです。特に、決して「歴史」を否定するつもりはありませんが、過去の出来事を完全に「理解する」ことは、実質的には不可能なのかもしれません。
でも、幸いなことに、私達には「想像力」というかけがえのない能力があります。(著しく欠けている人もいますが……という辛辣なことはここでは触れないでおきます)
伝えられた「史実」を集め、それを鵜呑みにするだけでなく、ある種のイマジネーションを働かせ、時には疑問を持ち、自分なりの解釈を導き、実際はどうだったのだろう? という想像力を最大限に働かせると、「史実」の裏側が見えてくることもあるでしょう。それを「理解」と呼んでもいいのか分かりませんが、知識を超えた見識に辿り付くことは間違いありません。その為には、ひたすら学び、人物に接近し、勘を働かせ、心象を共有する必要があります。
さて、南ノさんの『太宰治は、二度死んだ』ですが、この作品は太宰治の一度目の心中事件について取り上げた「物語」です。言うまでもなく、この心中は未遂に終わったのですが、それはあくまで「太宰治」目線での話に過ぎません。つまり、相手の女性はこの事件でかけがえのない命を落としたのです。
ここで、一つだけ軽いネタバレを書きますと、『太宰治は、二度死んだ』は、太宰治ではなく、心中相手の女性にフォーカスした物語なのです。彼女はどのような人生を送ったのか、太宰治との関係、自死を決断した理由、その時の心情……南ノさんは、沢山の「史実」をそのまま鵜呑みにするのではなく、様々なアプローチからある種の疑問を抱き、最大限の「想像力」を注ぎ込み、この心中事件を独自の解釈で読み解いたのです。
史実を元にした物語は、古今東西問わず、沢山存在しているでしょう。でも、淡々と史実とされる出来事のみを羅列すると、それは「伝記」になるのです。また、「史実」をヒントにイマジネーションを膨らませ過ぎると、「歴史ファンタジー」になるのです。南ノさんの作品は、「伝記」でも「ファンタジー」でもありません。基本的には史実を忠実に再現しながら、彼女自身の解釈を加味し、不自然に感じた部分を彼女の想像力で補った物語なのです。
これは、僅か十七歳にして命を落とすことになった少女の記録……儚くて、悲しくて、短くも濃密で、美しくて、とても純粋で、壮絶で、愛らしくて、ひたむきに生きた短い人生の記録です。ここまで、内容にはあえて触れずに書きました。とにかく、あらすじを知らない状態で、皆さまに読んで欲しいのです。こんなに人に読んで欲しいと思う物語は他に思い付かないぐらい、皆さまにオススメしたいのです。
そして、最後の最後、ごく短いエピローグの後の「参考文献」を見て欲しいのです。南ノさんがこの作品にどれだけの覚悟と決意を持って取り組まれたのかが「理解できる」と思います。
また、ご本人様によるこの作品の「あとがき」も必読です!
かつて、こんなに充実した「あとがき」はあったのでしょうか? しかも、連載ですし!
ここでは、南ノさんがどのようなキッカケでこの作品を書くことになったのか、非常に面白い裏話が溢れております。おそろしいまでの洞察力と推理力、そして想像力……いや、それ以前の圧倒的な知識も踏まえ、作家、南ノ三奈乃の真髄に迫る、貴重なエッセイとも言えるでしょう!
こちらも、「オールカテゴリ部門」にエントリーされております。「単なる」あとがきじゃないです!