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【彼女は一人で歩くのか?】森博嗣

※インスタに投稿した記事より、一部加筆修正してお届けいたします。

 大好きな森博嗣先生の世界に、久し振りに帰ってきました。
 約20年も前に『すべてがFになる』を読んだ時、おそらく私の読書歴で最大の衝撃を受け、以降、S&Mシリーズに始まり、森先生の作品はほぼすべて読んできました。
 つまり、この20年の間、ずっと私のナンバーワン作家が森博嗣先生です。

 しかし、特に理由はありませんが、このWシリーズだけは手を出していませんでした。
 この度、ようやく1冊目に手を出したのですが……これは、時代的には百年シリーズの更に先と言ってもいいのかな? 近未来とは言え、先生の著書の中では、おそらく最も遠い未来の設定になっています。

 ウォーカロン(Walk Alone)という(とてもステキなネーミングの)アンドロイドはより人へ近付いている。
一方で、医学の進化で死ななくなった人類は、逆にアンドロイドへと歩み寄る……そこで生じる問題。
人とウォーカロンは、いかにして共存すべきか? 或いは区別すべきか? 違いはあるのか? 同化してはいけないのか?……ここから浮かび上がる、生命の本質、人類の意義、人間性とは何か? そういった沢山のテーマを、洗練された静謐な文体で問い掛けてきます。
 色々考えさせて頂きました。

 そして、やっぱり森先生ならではの、理知的でロジカルなやり取りに、数学的な美を感じウットリします。
 沢山の溜息をこぼしました。もし溜息に質量があるなら、この一冊で激ヤセしたと思います。

 特に印象に残ったシーンです。
 ウォーカロンの人工知能は優秀だから、研究もウォーカロンに任せれば? という意見に対し、主人公の研究者も一定の理解を示します。

「……計算と解析、つまりは処理の正確さと精密さだけが問われるものであれば、彼らは人間より優秀だ……」と。
 そして、この後のやり取りが最高でした。

「何が不得意なのですか?」
「うん、まぁ、簡単にいえば、インスピレーションだね」
「でも、そんなものが本当に存在するのでしょうか?…(中略)人間が抱いている幻想なのではないか、という気もします。…(略)」
「その観測は、ある意味正しい。それは、誰もが抱いている不安でもある。人間にしかできないものだ、という最後の砦というべきものだが、その実態は深い霧の中。けれども、もし、こういった回路で、こういったシステムでそれが成されている、つまり、ここが人間に特有の部位だ、と特定ができれば、それは即座に人工知能にも、もちろんウォーカロンにも適用されるだろう。そうなったら、結果として、人間という存在が消えてしまうかもしれない」

 この会話に少しでも心揺さぶられる方は、きっとこの本を気に入って頂けると思います。

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