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【儚い羊たちの祝宴】米澤穂信

※インスタに投稿した記事より、一部加筆修正してお届けいたします。


 いきなりですけど、これは面白かった!
 米澤穂信先生の作品は、それほど沢山読み込んだわけではありませんが、今のところ、私の中ではハズレのない作家さんの地位をキープしております。
 この本は、「ハズレでない」どころか、個人的には「大当たり」でした。

 本書は、五作から成る短編集ですが、全ての物語に「バベルの会」という優雅で高貴な読書サークルが見え隠れします。そして、全話共通して、多かれ少なかれ、「バベルの会」を取り巻く邪気に侵食された人々が描かれていますので、いわゆる「連作短編集」とも言えるでしょう。

 全ての物語で、色んな地方の名家が舞台となっています。何処を切り取っても懐古的で、古典的な雰囲気に溢れ、時に耽美な印象も受けます。
 その中で、上品で柔和な上流階級の女性達による、知的で教養のある丁寧な言葉遣いで、物語は綴られています。

 しかし、何処となく儚げな雰囲気の中、見え隠れする「狂気」が徐々に形を成していきます。

 名家ならではの、崇高で確固たる地位とプライド。その裏にある伝統を継承する危うさと脆さ。
 時に、人間としての尊厳よりも、「家」を守ることを優先し、歪みが生まれます。
 そんな環境から生まれる狂気は、貴族的で甘美な語り口だからこそ、より異質な毒を孕み、際立つのです。

 大まかなカテゴリだと、ミステリに属するのかもしれません。確かに、伏線があり、謎解きがあり、フェアな構成になっています。
 ただ、ミステリ要素はさほど強くなく、おそらく純粋に推理小説を楽しみたい人にとっては、犯人も謎も直ぐに予測出来るかもしれませんし、動機は弱くて曖昧に思う可能性もあります。なので、そういう読み方しかしない人(批判や皮肉ではありません)にとっては、物足りないでしょう。
 独特の世界観での、優雅で儚げでミステリアスな雰囲気の人物など、少し浮世離れした雰囲気を味わいながら、ちょっとしたミステリが溶け込んでいる、そういうアプローチで読んで欲しいなぁと思いました。
 そうすると、どの物語も、結末はブラックユーモアなのか、残酷な恐怖なのか……他に例のないような紙一重の感覚は、とても新鮮で鮮烈に感じると思うのです。

 また、全ての物語で、とても秀逸なフィニッシングストロークが待ち構えています。
 特に、第四話『玉野五十鈴の誉れ』の最後の一文は、鳥肌が立つぐらいに強烈でした。



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