ボルツマン因子・分配関数・内部エネルギー

私はキッテル熱物理学で統計力学を学んだ。この本ではエントロピー$${{S}}$$と温度$${{T}}$$ではなく、基本エントロピー$${{\sigma = \frac{1}{k_B}S}}$$と基本温度$${{\tau = k_BT}}$$を中心に論が展開されていく。

それはそれで美しいのだが、熱力学との対応を考える際には結局$${{S}}$$と$${{T}}$$に変換することになって混乱してくるので、最初から$${{S}}$$と$${{T}}$$で論を展開した場合どうなるかをまとめておく。

本項は第$${{2}}$$版$${{3}}$$章のp.47〜p.49に相当する。

ボルツマン因子

ある系$${{\mathcal{S}}}$$があるとする。この系は非常に大きい系$${{\mathcal{R}}}$$なる系と熱平衡にあるとする。この系$${{\mathcal{R}}}$$を熱だめと呼ぶことにする。

このとき、全系$${{\mathcal{R}+\mathcal{S}}}$$は共通の温度$${{T}}$$を持ち、その全エネルギー$${{E_0}}$$は保存する。系$${{\mathcal{S}}}$$がエネルギー$${{ \epsilon_{\mathcal{S}} }}$$を持つとすれば、熱だめ$${{\mathcal{R}}}$$のエネルギーは$${{E_0 - \epsilon_{\mathcal{S}}}}$$である。

ここで、系$${{\mathcal{S}}}$$が量子状態$${{s}}$$である確率を$${{P_s}}$$としたとき、量子状態$${{a}}$$である確率と量子状態$${{b}}$$である確率の比は、等重率の原理より状態数$${{\Omega(E)}}$$の比に等しいとして

$$
\begin{array}{rcl}
\frac{P_a}{P_b} = \frac{\Omega_{\mathcal{R}} (E_0-\epsilon_a) \times 1}{\Omega_{\mathcal{R}} (E_0-\epsilon_b)\times 1}
\end{array}
$$

と書けるだろう。ただし、系$${{\mathcal{S}}}$$の量子状態$${{s}}$$に対応するエネルギーを$${{\epsilon_s}}$$とした。式中の$${{1}}$$は、系$${{\mathcal{S}}}$$の量子状態$${{s}}$$である状態数は$${{1}}$$であることを示している。
エントロピー$${{S = k_B \ln \Omega}}$$を用いて表現すれば、

$$
\begin{array}{rcl}
\frac{P_a}{P_b} &=& \frac{\exp(\frac{1}{k_B}S_{\mathcal{R}} (E_0-\epsilon_a))}{\exp(\frac{1}{k_B}S_{\mathcal{R}} (E_0-\epsilon_b))} \\
&=& \exp \lbrack \frac{1}{k_B}S_{\mathcal{R}} (E_0-\epsilon_a) - \frac{1}{k_B}S_{\mathcal{R}} (E_0-\epsilon_b)\rbrack
\end{array}
$$

となるが、ここで$${{S_{\mathcal{R}} (E) }}$$を$${{E_0}}$$まわりで$${{1}}$$次までテイラー展開すると、

$$
\begin{array}{rcl}
S_{\mathcal{R}} (E_0-\epsilon_s) &=& S_R(E_0) - \epsilon_s (\frac{\partial S_\mathcal{R}}{\partial E}) \\
&=& S_R(E_0) + \frac{- \epsilon_s }{ T}
\end{array}
$$

なのだから、

$$
\begin{array}{rcl}
\frac{P_a}{P_b} &=& \exp\lbrack (\frac{-\epsilon_a}{k_BT}) - (\frac{-\epsilon_b}{k_BT}) \rbrack \\
&=& \frac{\exp(\frac{-\epsilon_a}{k_BT})}{\exp(\frac{-\epsilon_b}{k_BT})}
\end{array}
$$

である。この$${{\exp(\frac{-\epsilon_s}{k_BT})}}$$という形の項はボルツマン因子として知られている。

分配関数

いま、分配関数$${{Z(T)}}$$と呼ばれる関数を以下のように定義する。

$$
\begin{array}{rcl}
Z(T) := \sum_s \exp(\frac{-\epsilon_s}{k_BT})
\end{array}
$$

この分配関数$${{Z(T)}}$$を用いて、ある量子状態$${{s}}$$が実現する確率$${{P_s}}$$は

$$
\begin{array}{rcl}
P_s = \frac{1}{Z} \exp(\frac{\epsilon_s}{k_BT})
\end{array}
$$

と書ける。

内部エネルギー

系$${{\mathcal{S}}}$$の平均の内部エネルギー$${{E_\mathcal{S}}}$$を考えると、これは$${{E_\mathcal{S} = \langle \epsilon \rangle = \sum_s P_s \epsilon_s}}$$としてよいだろう。$${{P_s}}$$に上記の分配関数の式を当てはめれば、

$$
\begin{array}{rcl}
E_\mathcal{S} &=& \sum_s \frac{1}{Z} \epsilon_s \exp(\frac{-\epsilon_s}{k_BT})
&=&k_B T^2\frac{\partial \ln Z}{\partial T}
\end{array}
$$

という形が得られる。一応確かめておくと、

$$
\begin{array}{rcl}
\frac{\partial \ln Z}{\partial T} &=& \frac{\partial \ln Z}{\partial Z} \frac{\partial Z}{\partial T} \\
\frac{\partial \ln Z}{\partial T} &=& \frac{1}{Z} \sum_s \exp \frac{-\epsilon_s}{k_BT} \frac{\epsilon_s}{k_BT^2} \\
k_BT^2 \frac{\partial \ln Z}{\partial T} &=& \frac{1}{Z} \sum_s \epsilon_s \exp \frac{-\epsilon_s}{k_BT}
\end{array}
$$

となって成り立っている。


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