調和振動子の因数分解法による解法
上の記事で因数分解法によるエルミート演算子の固有値問題の解法を示したので、調和振動子のハミルトニアンに適用してみる。水素様原子や井戸型ポテンシャルにも適用してみる予定。
問題の確認と無次元化
調和振動子のハミルトニアン$${{H}}$$は
$$
\begin{array}{l}
H = \frac{p^2}{2m} + \frac{m \omega ^2}{2}q^2
\end{array}
$$
である。ここで、座標と運動量を無次元化するために
$$
\begin{array}{l}
Q &= \sqrt{ \frac{m \omega}{\hbar} }q \\
P &= \frac{1}{\sqrt{m \hbar \omega}}p \\
\end{array}
$$
とすると、
$$
\begin{array}{l}
H = \frac{1}{2} \hbar \omega (P^2 + Q^2)
\end{array}
$$
となる。$${{Q}}$$と$${{P}}$$の交換関係を調べておくと、
$$
\begin{array}{ll}
\lbrack Q, P \rbrack = \sqrt{ \frac{m \omega}{\hbar} } \cdot \frac{1}{\sqrt{m \hbar \omega}} \lbrack q, p \rbrack = \frac{1}{\hbar} \lbrack q, p \rbrack = iE
\end{array}
$$
である。
このハミルトニアンの固有値と固有ベクトルが知りたければ、
$$
\begin{array}{l}
A_0 = P^2 + Q^2
\end{array}
$$
の固有値問題を解けばよい。
因数分解
この演算子には$${{P}}$$と$${{Q}}$$の$${{2}}$$次の項しかないので、
$$
\begin{array}{l}
A_0 = (-iP \pm Q)(iP \pm Q) + c_0E
\end{array}
$$
と書けるはずである。これを展開してみると、
$$
\begin{array}{ll}
A_0 &= (-iP \pm Q)(iP \pm Q) + c_0E \\
&= (-iP \pm Q)(iP \pm Q) + c_0E \\
&= P^2 + Q^2 \pm i \lbrack Q, P \rbrack + c_0 E\\
&= P^2 + Q^2 + (c_0 \mp 1) E
\end{array}
$$
だから、
$$
\begin{array}{rl}
c_0 \mp 1 &= 0 \\
c_0 &= \pm 1
\end{array}
$$
とできて、$${{c_0}}$$が大きくなる方を取れば、
$$
\begin{array}{lcl}
c_0^\mathrm{max} &=& 1 \\
\theta_0 &=& iP + Q \\
\end{array}
$$
である。
因数分解部分をひっくり返す
因数分解部分をひっくり返すと、
$$
\begin{array}{rcl}
A_1 &=& \theta_0 \theta_0^\dagger + c_0^\mathrm{max} \\
&=& (iP + Q)(-iP + Q) + E \\
&=& P^2 + Q^2 -i \lbrack Q,P \rbrack + E \\
&=& P^2 + Q^2 + 2E \\
\end{array}
$$
となる。$${{A_0}}$$と同じ要領で因数分解を試みると、
$$
\begin{array}{lcl}
c_1^\mathrm{max} &=& 3 \\
\theta_1 &=& iP + Q \\
\end{array}
$$
が得られる。ここで、$${{\theta_1 = \theta_0}}$$になっていることに注目すると、以降は帰納的に
$$
\begin{array}{rcl}
A_n &=& P^2 + Q^2 + (2n+1)E \\
&=& A_0 + (2n+1)E \\
\end{array}
$$
であることが分かり、
$$
\begin{array}{lcl}
c_n^\mathrm{max} &=& 2n + 1 \\
\theta_n &=& iP + Q \\
\end{array}
$$
とできるので、$${{A_0}}$$のすべての固有値$${{a_n = c_n^\mathrm{max} = 2n + 1}}$$が求まった。
ハミルトニアン$${{H}}$$の固有値$${{_n}}$$にしたければ$${{\frac{1}{2}} \hbar \omega}$$をかけてやればよいので、
$$
\begin{array}{}
E_n &=& \hbar \omega (n + \frac{1}{2}) \\
\end{array}
$$
である。
固有ベクトル
$${{A_0}}$$の固有値$${{a_n}}$$に対応する固有ベクトル$${{\ket{\psi_n}}}$$は
$$
\begin{array}{}
\ket{\psi_n} = \theta_0^\dagger \theta_1^\dagger … \theta_{n-1}^\dagger \ket{\phi_n}
\end{array}
$$
であるが、調和振動子の場合は$${{\theta_n = \theta_0}}$$であるので、$${{\ket{\phi_n} = \ket{\phi_0}}}$$が言えて、
$$
\begin{array}{}
\ket{\psi_n} = (\theta_0^\dagger)^n \ket{\phi_0}
\end{array}
$$
である。
波動関数
$$
\begin{array}{}
\theta_0 \ket{\phi_0} = 0
\end{array}
$$
を満たすベクトル$${{\ket{\phi_0}}}$$の座標表示を見つけることができれば、これはいわゆる基底状態の波動関数$${{\braket{Q \vert \phi_0}}}$$であって、この$${{\braket{Q \vert \phi_0}}}$$に演算子$${{\theta_0^\dagger}}$$を次々作用させることですべての波動関数が求まる。上の方程式は座標表示では
$$
\begin{array}{rcl}
(\frac{d}{dQ} + Q) {\braket{Q \vert \phi_0}} &=& 0 \\
\end{array}
$$
という微分方程式となるが、これは変数分離形をしており容易に解けて、
$$
\begin{array}{rcl}
\frac{1}{\braket{Q \vert \phi_0}} \frac{d}{dQ} {\braket{Q \vert \phi_0}} &=& -Q \\
\int \frac{1}{\braket{Q \vert \phi_0}} \frac{d}{dQ} {\braket{Q \vert \phi_0}} dQ &=& - \int QdQ\\
\ln \braket{Q \vert \phi_0} &=& - \frac{1}{2} Q^2 + C \\
\braket{Q \vert \phi_0} &=& C^\prime \exp{(-\frac{1}{2} Q^2})
\end{array}
$$
とできる($${{C}}$$は積分定数、$${{C^\prime}}$$は$${{\pm \exp{(C)}}}$$とした)。
$$
\begin{array}{rcl}
\int^{\infty}_{-\infty} \braket{\phi_0 \vert Q} \braket{Q \vert \phi_0} dQ = 1
\end{array}
$$
の条件のもと規格化すれば、ガウス積分$${{\int^{\infty}_{-\infty}\exp(-ax^ 2)dx=\sqrt{\frac{\pi}{a}}}}$$より、
$$
\begin{array}{rcl}
\braket{Q \vert \phi_0} &=& \pi ^ {(-\frac{1}{4})} \exp{(-\frac{1}{2} Q^2})
\end{array}
$$
が得られる。
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