ヘルムホルツの自由エネルギー
私はキッテル熱物理学で統計力学を学んだ。この本ではエントロピー$${{S}}$$と温度$${{T}}$$ではなく、基本エントロピー$${{\sigma = \frac{1}{k_B}S}}$$と基本温度$${{\tau = k_BT}}$$を中心に論が展開されていく。
それはそれで美しいのだが、熱力学との対応を考える際には結局$${{S}}$$と$${{T}}$$に変換することになって混乱してくるので、最初から$${{S}}$$と$${{T}}$$で論を展開した場合どうなるかをまとめておく。
本項は第$${{2}}$$版$${{3}}$$章のp.55〜p.58に相当する。
ヘルムホルツの自由エネルギー
関数$${{F}}$$を以下で定義する。
$$
\begin{array}{rcl}
F := E -TS
\end{array}
$$
この関数はヘルムホルツの自由エネルギー$${{F}}$$と呼ばれる。系の体積が一定で熱だめ$${{\mathcal{R}}}$$と熱的に接している系$${{\mathcal{S}}}$$において、このヘルムホルツの自由エネルギー$${{F}}$$は極値をとる。
なぜならば、$${{F}}$$の全微分は
$$
\begin{array}{rcl}
dF &=& dE - TdS - SdT \\
&=& TdS - pdV - TdS - SdT \\
&=& - pdV - SdT
\end{array}
$$
であるが、体積$${{V}}$$と温度$${{T}}$$が一定であるとき$${{dV=0}}$$、$${{dT=0}}$$であって(温度$${{T}}$$が一定であるということは熱平衡にあるということだ)、
$$
\begin{array}{rcl}
dF = 0
\end{array}
$$
が得られる。すなわち、熱平衡において$${{F}}$$が極値をとることを意味する(広く知られているように、この極値が最小値であることまで示せるのだが、本項では割愛する)。
微分関係式
$${{F}}$$の微分は
$$
\begin{array}{rcl}
dF &=& - pdV - SdT
\end{array}
$$
なのだから、$${{F}}$$の変数は$${{V}}$$と$${{T}}$$であると見て、
$$
\begin{array}{rcl}
\frac{\partial F}{\partial V} = -p \\
\frac{\partial F}{\partial T} = -S \\
\end{array}
$$
という関係式が得られる。これをヘルムホルツの自由エネルギーに関する微分関係式と呼ぶ。
分配関数とヘルムホルツの自由エネルギー
さて、
$$
\begin{array}{rcl}
F := E - TS
\end{array}
$$
であるが、ここに$${{S = -\frac{\partial F}{\partial T} }}$$と$${{E = k_BT^2\frac{\partial \ln Z}{\partial T}}}$$を代入してやると、
$$
\begin{array}{rcl}
F &=& k_BT^2\frac{\partial \ln Z}{\partial T} + T\frac{\partial F}{\partial T} \\
F - k_BT^2\frac{\partial \ln Z}{\partial T} - T\frac{\partial F}{\partial T} &=& 0\\
\end{array}
$$
という$${{F}}$$についての微分方程式が得られる。
これを満足するには、
$$
\begin{array}{rcl}
F = -k_BT \ln Z
\end{array}
$$
とすればよい。一応確かめておくと、微分方程式中の$${{F}}$$に$${{-k_BT \ln Z}}$$を代入すれば、
$$
\begin{array}{l}
-k_BT \ln Z - k_BT^2\frac{\partial \ln Z}{\partial T} - T\frac{\partial (-k_BT \ln Z)}{\partial T} \\
= -k_BT \ln Z - k_BT^2\frac{\partial \ln Z}{\partial T} +k_BT \ln Z + k_BT^2 \frac{\partial \ln Z}{\partial T} \\
= 0
\end{array}
$$
となって、たしかに成り立つ。
(実は定数$${{C}}$$を用いて
$$
\begin{array}{rcl}
F = -k_BT (\ln Z + C)
\end{array}
$$
としても上の微分方程式を満たすのだが、$${{T=0}}$$においてエントロピー$${{S = -\frac{\partial F}{\partial T}}}$$が$${{k_B\ln \Omega_0}}$$でなければならないため($${{\Omega_0}}$$は最低エネルギーの状態数とした)、$${{C= 0}}$$でなければならない。)
量子状態の実現確率とヘルムホルツの自由エネルギー
分配関数とヘルムホルツの自由エネルギーの関係は
$$
\begin{array}{rcl}
Z &=& \exp (\frac{-F}{k_BT})
\end{array}
$$
と書いてもよいだろう。すると、量子状態$${{s}}$$が実現する確率$${{P_s}}$$は
$$
\begin{array}{rcl}
P_s &=& \frac{1}{Z} \exp(\frac{-\epsilon_s}{k_BT}) \\
&=& \exp ( \frac{F-\epsilon_s}{k_BT} )
\end{array}
$$
とできる。
なぜヘルムホルツの自由エネルギーか
$$
\begin{array}{rcl}
F = -k_BT \ln Z
\end{array}
$$
という式は非常に有用である。
$$
\begin{array}{rcl}
Z = \sum_s \exp(\frac{-\epsilon_s}{k_BT})
\end{array}
$$
であるが、この$${{\epsilon_s}}$$は量子力学の知見によって決定でき、$${{Z}}$$の関数形が決定できる。$${{Z}}$$の関数形が決定できれば、$${{F}}$$の関数形が決定できる。$${{F}}$$の関数形が決定できれば微分関係式により$${{S}}$$の関数形が決定できるので、そこから芋づる式に種々の物理量の関数形が決定できるためである。
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