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額田やえ子さん『アテレコあれこれ』【過去記事⑪】
※2022年に投稿した記事です。
こんばんは、じゃいこです。前回のブログにも書いたように、今年に入って一番心がけているのがスマホ時間を減らして読書の時間を増やすことです。読みたい本は無限にあるのに「積ん読」が増えていくばかり。自分の生活を見直した時に削らなくちゃと思ったのがスマホを見ている時間だったんです。今はまだスマホを開きそうになったら意識して目の前にある本を手にとるようにしていますが、これが無意識になって、いつかは習慣になったらいいなと思っているところです。
そんな1年の抱負に合わせて読み始めた記念すべき1冊目が額田やえ子さんの『アテレコあれこれーーテレビ映画翻訳の世界』でした。
昨年、吹き替え翻訳について調べている時に偶然SNSでこの本を見つけ、絶版であることを知って慌てて古本で購入しました(定価460円が2000円でした。ご覧のとおり年季が入っています)。しかし読まずに年を越してしまっていたのです……
前半はアテレコ(吹き替え)について、後半は額田やえ子さんの英語人生について書かれています。
アテレコについては、吹き替え翻訳をしたことがない人でもうなずけるような「翻訳のあるある話」が額田やえ子さんの体験談とともに描かれています。特に外国語の方言や日本語にない役職はどう訳すか悩んだエピソード、一生懸命調べ物をしたのに原語の誤植だった時の悲しかったエピソードは自分のことのように感じながら読み進めました。この本が出版された1989年から今もずっと翻訳者が同じことで悩んでいると知り、(おこがましいですが)親近感を覚えました。
全編をとおして現在の翻訳と通じることが多かったのですが、翻訳をする環境に関しては今と大きく違っていました。左手にリモコンを持ってビデオを操作し、右手で原稿用紙にト書きやセリフを書きこんでいく……調べ物は書籍か、その道に詳しい人に聞く……読んでいるだけで気の遠くなる作業です。極端に言ってしまえば今はパソコンひとつでも翻訳ができてしまうのに、日々ひーひー言いながら訳している自分が恥ずかしくなりました。
後半も「英語人生」と銘打っているものの、共感できる部分がたくさんありました。なかでも印象に残っている箇所をちょこっと紹介していきます。
まずは「シリーズものを引き受けた時、無事に終えられるか不安で気が重くなる。終わった瞬間心底ほっとして休もうと思うものの、気づけば次の仕事を受けている」こと。私も1年中これの繰り返しです。第一線で活躍していた額田やえ子さんだって不安だとおっしゃってるんだから、私が不安で押しつぶされそうになるのはある意味当然のことなのだと励まされました。
次に「(英語を学んだおかげで)得難い友を得ることができた」というところ。私も韓国語を学ばなかったら会えなかった友人がたくさんいるので、それだけでも勉強してよかったと改めて実感しました。そして同時にコロナでずっと会えていない友人たちを思い出して、こみ上げるものがありました。(みんな会いたいよー……)
読み終えて2週間ほど経っていますが、すでに落ち込んだ時に好きな章を読み返すくらい、私にとって大切な本になりました。実はこの本を読むまでは額田やえ子さんのことを存じ上げなかったのですが、これを機に「刑事コロンボ」などの吹き替え版も見てみたいです。絶版になってしまった本ですが、翻訳に興味がある方や語学の勉強をしている方、さらには映画好きの方が読んでもおもしろい1冊だと思います。