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いとしのN행시(N行詩)「バラエティーの韓国語」【過去記事⑧】
※2021年に投稿した記事です。
こんにちは、じゃいこです。
突然ですが、私はとにかく韓国のバラエティー番組が大好きです。好きな番組は韓国のテレビ局のサイトでリアルタイムで視聴して、そのあと日本の配信でまた見て、それも録画して何度も見て…という具合に、私の自由時間は、学生時代からほぼ韓国バラエティーに費やされています。
ただ、字幕翻訳の仕事を始めてから、「これ訳すならどうしよう?」という視点で番組を見てしまうことも多くなりました。
そんな翻訳者泣かせなバラエティー番組の韓国語をこれからちょこちょこ紹介していこうかな、と思っています。今日はその第1弾。「N해시(N行詩)」です。
※ブログで紹介する内容は私が担当した番組ではありません。視聴者として見たものだけを載せています。
N행시って何?
漢字で書くと「N行詩」、本来は行から成る詩のことを指しています。行数によって이행시(二行詩)、삼행시(三行詩)、사행시(四行詩)…と変化していくのですが、バラエティー番組では行数に関係なく「삼행시」と言っていることもしばしば。
さて、この「N行詩」ですが、ゲームとして定着したのは「無限に挑戦」というバラエティー番組がきっかけでした。単語の頭文字をとって文を作るゲームを「N행시」と呼んで放送したところ、これが大ヒット。そこからバラエティー番組の定番ネタとなっていきました。そのため、バラエティー番組における「N행시(삼행시)」は、詩というより、日本語でいう「あいうえお作文」に近い言葉遊びだと言えます。
どこが翻訳者泣かせなの?
翻訳者泣かせポイント、大きく分けるとこの3点です。
お題の単語が日本語の音と一致するとは限らない
お題に続く単語や文章が韓国語の音と一致しないことがほとんど
笑いのポイントを押さえなくてはいけない
ひとつずつ見ていこうと思います。
お題の単語が日本語の音と一致するとは限らない
お題の単語はMCや出演者がその場のノリで決めますが、だいたいが人名か短めの単語です。
人名の場合はラッキー。なぜなら音は原語と一致するからです。かと言って音数は一致しなかったりしますが…
単語でラッキーパターンは、たとえば「トマト」や「キムチ」のような日本語の音とほぼ同じ一部の外来語や料理名のみ。
その他の単語(「テンジャン(味噌)」、「ヒュジトン(ゴミ箱)」などなど…挙げたらきりがない…)は、お題の時点で涙目です。
お題に続く単語や文章が韓国語の音と一致しないことがほとんど
これはお題と共通する部分です。お題はカタカナで乗り切れたとしても、そのあとのあいうえお作文で続く文章が日本語と同音ということはほぼありえないので、ルビや近い発音の類語を探す必要が出てきます。
これに関しては、このあとの例文で見ると分かりやすいと思います。
笑いのポイントを押さえなくてはいけない
一番腕を試されているのはここかもしれません。N행시のあとは、たいてい出演者が笑ってる顔が映ったり、笑い声が入っているので、きちんと笑いのポイントを押さえる必要があります。
これが普通の文ならまだしも、最後の一行はオチに使うため、流行語を入れたり、掛けことばになっていたりするので、出てきたら白目をむきます。
ちなみにアイドルより芸人さんのN행시のほうが難しい傾向にあります。アイドルは自己紹介や愛嬌でN행시をする(させられる)ことが多く、芸人さんは笑わせるためにより複雑な言い回しでN行詩をすることが多いからです。
レベル別に見てみよう!
独断と偏見でバラエティー番組に登場したN行詩をレベル別に紹介していきたいと思います。
人によって訳し方は全く異なると思うので韓国語だけ載せておきます。もし「私ならこう訳す」というのを見せ合いっこしてくださる方がいらしたら、ぜひ見せ合いっこさせてください。DMやコメント待ってます!
レベル1
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お題の音が韓国語も日本語も一緒で、そのあと続く単語の音も一緒なので超超ラッキーパターンです。
レベル2
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レベル1と同様お題は韓日で一緒。そのあとに続く単語も「츠위=ツウィ」はいける。「위」も「ウィ」と「い」ならルビでフォローできる範囲。
レベル3
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お題が人名なのでひと安心…と思いきや2行目以降はもう音が一致しないので、ルビを振るか、音が近い類義語を探すか、悩み始めます。
レベル4
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来ました!お題の韓国語と日本語の音も音数も違うパターンです。内容がシンプルなのが不幸中の幸いですが、「냠냠」という擬態語も登場するので、ちょっと構えてしまいます。
レベル5
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ジャンルって何?って話ですよね…最近某番組でやっていたものなのですが、3人が1行ずつリレー形式で文章を作り、なおかつ文章のジャンルが「ホラー」、「ロマンス」、「時代劇」などと指定されてるんです(すでに情報量が多い。)
しかも上の例の場合、「3行目が文脈&ジャンルに合っていない」という理由で、出演者が笑い転げるという恐ろしい展開…ということで、ホラー仕立てにしつつ、3行目で笑わせる必要があります。
この前提だけで困ってしまうのに、お題が「옹달샘」、日本語だと「小さな泉」…音が違うどころか文字数も合っていません。ぱたり。
もちろんそのあとの文章も日本語とは一致しません。ということで、「オン ダル セム」の音を残して文章を構成していくのか、それともルビを振って乗り切るのか、考えることが多すぎて頭が爆発しそうです。
それでも「N行詩」が好き!
ここまで「N行詩」は翻訳者泣かせだと、ぶつぶつ書いてきたわけですが、そんな「N行詩」もいとおしい存在です。
視聴者としては韓国語ならではの言葉遊びが楽しめるところ、翻訳者としてはピタッとはまる訳ができた時の爽快感がたまらないからです。
韓国のバラエティー番組を見ているとゲームのシーンはテンポも速く、あっという間に通り過ぎてしまいますが、注目してもらえたらうれしいです。