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「試し読み」しませんか。

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コバヤシ課長お勧め本の「目次」や「前書き・後書き」「 本文の一部」が無料で読めます。ときに全文掲載も。本との新たな出合いの機会に!
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#ショートショート

【試し読み】3話連続公開! 第3話「心霊スポット」(『ラストで君は「まさか!」と言う 傑作選 トパーズの誘惑』より)

【心霊スポット】 三十代半ばのふたりの男が、小さなバーを開店した。 五人掛がけのカウンターのほかに、ふたり掛けのテーブルがひとつというせまい店だが、バーを開くことはふたりの大学時代からの夢であり、それが叶ったのである。 「ついにやったな」 「うん。まあ、これからが勝負だけどな」 ふたりの店は、大通りから少しそれた路地裏にある。 ふたりが生まれるよりずっと前に建てられた古いビルは、洒落たレンガづくりで、これまでに見た物件の中でもっともイメージに近かった。そのうえ、想

【試し読み】3話連続公開! 第2話「ぼくのおとうと」(『ラストで君は「まさか!」と言う 傑作選 トパーズの誘惑』より)

【ぼくのおとうと】 弟のリクが生まれたのは、僕が三歳の夏だった。僕は小さくて、うちに新しい家族が増えるなんてことは考えもしなかった。だから、お母さんが生まれたばかりのリクを病院から連れて帰ってきた時、僕はちょっと……ううん、すごくびっくりしたんだ。 「この子の名前はリクっていうの。仲よくしてね、ソラ」 「うん。いいよ。僕の弟なんでしょ?」 僕はお母さんの腕に抱だかれた小さな弟をのぞき込んでそう答えた。 リクはちっちゃくて弱々しくて、目を離はなしたらすぐに死んじゃいそう

【試し読み】3話連続公開! 第1話「完璧な未来」(『ラストで君は「まさか!」と言う 傑作選 トパーズの誘惑』より)

【完璧な未来】 夜の十時。 黒崎圭が会社でノロノロと業務日誌を書いていると、突然、すべての照明が消えた。真っ暗なフロアの中に浮き上がるのは、目の前にあるパソコンのディスプレイだけ。 「なんだよ。俺がまだ残ってるのに」 だれかが退社する時、圭がいることに気づかず電源を切ったのだろう。嫌味な上司がわざと消したのかもしれない。圭は卓上のカレンダーを見て、思わず顔をしかめた。 「一月十九日か。最悪の日だ。あーあ。人生、やり直してーなー」 ため息をついて椅子に寄り掛かかると