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#37 ムンバイからプネーまでたった74Rs。4時間のインド列車で起きたこと

東京メトロ東西線を超える混雑度の車内に、ヒジュラ(女装をした元男性?トランスジェンダーの人々)が乗り込んできた。

「彼女」は「ラ!ラ!ラ!」などといいながら僕のカラダを弄ってきて、手を差し出して堂々と喜捨を要求する。

10Rsを渡すと「チャイニーズ!!モモ!」などと言いながら手を叩いてお祈りを捧げてくれる。全くなんのご利益も感じねえ〜。

車内の人々は絡まれても別に嫌な顔もせず、ニヤニヤしている。長旅のお供にちょっとアクセントを加えるエンタテインメントの一環とでも考えているようだ。

大きな荷物はなんとか置けたものの、乗車率200%を超える車内は蒸し暑く、立つスペースもほとんどない。どうしてこうなったんだろう...。

ほんの4時間ほどだが、まるでインド映画の中に巻き込まれたような体験だった。

一番安い切符を買ってしもうた

ムンバイからプネーへ移動するために、もともとはバスを使おうと思っていた。 インドのバス予約サイトRedbus.comでバスを見つけ予約を試みるも、支払いに日本のクレジットカードが使えない。

ホステルのスタッフに頼んでみると「おk!」といって二つ返事で支払いをしてくれるという。現金を渡す準備までしていたのだが、うまくいかなかったのか気が変わったのか、急に

「電車をつかえ。電車の方が安全だし安いし速いぞ。駅でチケットを買えば大丈夫だ。ブラザー」

と態度を変えてきた。お前、めんどくさくなっただけじゃないの。本当に大丈夫か。

Dadarという駅から乗ればプネーに行けるというので、まずは腹ごしらえとして2軒レストランにいく。今食べに行かずに死んだら後悔すると思ったからだ。

インド人の友達に強く勧められたシーフードのゴア料理を出すお店で、カキやイカなどもあったので食べてみたかったが、インドあるあるの「いまはできない」とのこと。

そこでフィッシュターリーを食べた。

ココナッツが効いた普通のフィッシュカレーで、特段めちゃくちゃ上手いわけではなかったが、生姜のチャトニやコカムカディ(コカムの入ったヨーグルトベースのもの)などの脇役がうまかった。

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www.highwaygomantak.com

一軒目は軽めにチャパティ一枚で済ませて、飲むようなカルナータカミールスをたべた。

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駅につき、カウンターで「Pune」といって100Rs紙幣を渡すと、26Rsもお釣りが返ってきた。つまり、ムンバイからプネーまで74Rs。300キロもあるのに?

え、安くない…?と思ったものの相場が分からないのでこのときはスルーしてしまった。

そのあと適当に付近をぶらぶらし、呑気に14:15発の列車を待つ。インドの駅はチケットを買わなくても入れる上めちゃくちゃわかりにくいのだが、無事に発車プラットホームにたどり着いた。


14:15になる。発車時刻だ。

ホームに滑り込んできた列車にSLEEPERとかAとかBとか書いてあるのを見て自分のチケットを確認するも、何も書かれていない。

そこで、さっき並んだカウンターが「Non-Reservation」だったことに気がつく。これ、GENERALクラス(席予約なし最下等)しか乗れんやつやんけ。

充実した車内エンタメ

インドの列車はドアの開閉がなく、基本開けっぱなし。電車が止まらないうちにみんな我先にとダッシュで乗り込み、席を確保しに走る。

スタートダッシュに遅れ、自分が乗ったときにはすでに全ての座席は埋まり、さらに全ての荷台の上に人が乗り終わったあとだった。3次元に空間を活用していてすごい。


発車時点はまだ空間に余裕があったのだが次の駅でどんどん人が乗ってきて、更に奥へ追いやられる。もう乗車率200%超え。

その上、ただでさえ混雑しているのに、どこかの駅に着くたびに物売りが乗り込んでくる。

人を手で掻き分け、ワダパオを売ったりチャイを売ったり。それを往復でやるので、毎回すれ違うために体を捻って「ンンッ!!アアッ!!」ってやらないといけない。

髪飾りなどのアクセサリーを売りにくる人もいて、売れるわけないだろ!と思ったら結構買う人がいた。

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ワダパオはポテトコロッケ的なワダを、パオ(パン)で挟んで食べる、マハラシュトラ名物スナック。

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車内の人々がほぼ全員買って食べ始めたので、僕もつられて買ってしまった。

ボロ新聞に包まれていて、パンをちぎって赤いチャトニ的なやつとワダを削り取りながら食べる。これはたった10Rs。

色が真っ赤だが味もなかなか辛くて、アツアツで美味しい。ちょっとヒーヒー言いながら食べた。

食べ終わると、前に座っていたおばちゃんがおもむろに床に布を引いて寝転び始める。
あの、僕は足の踏み場もないんですけど…。日本の混雑している電車でこんなことやったら謎の義憤で怒鳴り散らす人が多発だろうな。

インド人は「人に迷惑をかけてはいけない」ではなくって、「生きている以上、人に迷惑はかかってしまうものだからお互いに許し合おうぜ」って言われて育つらしい。
インド人は怒ったら負けなのだ。

だから私も許そう、マダムよ。。。

そんな状態で片足フラミンゴ状態になっていると、冒頭で書いたようにヒジュラの方が乗り込んできた。

手を叩きながら車内を歩き回り、ヒンディーかマラティーで冗談を飛ばし、それをきいて車内がドッと湧き立つ。

指の間には10ルピー札を挟んでいて、ひとりひとりからお金をもらっていく。外国人は僕しかいないため、どうしても目立つ。

「どこから来たんだ!なに、日本人?結婚しよう!」
残念だが、顔には青髭があり、どうみても女性には見えない。

「残念ながら僕のタイプではないのです」
と告げると、10rsを奪って去っていった。

カースト外の彼らは、おそらく定職につくことはなかなか難しく、ジプシーのように、旅芸人のように人々を楽しませたりお祈りを捧げたりしながらこうやって生きていくのだろう。

そういった諦めによるものなのか、「彼女」たちからは悲壮さは全く感じられず、あっけらかんとした雰囲気で当然のように人々からお金を巻き上げていた。

2人が代わる代わるやってきたのだが、1人目には求婚され、2人目にはめちゃくちゃ脇腹をくすぐられ、お金の入ったバックを「もってろ」としばらく持たされるという。なにこれ。

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そんなこんなであっという間に4時間が過ぎた。車内エンタテインメントが充実していたからか、時間の流れはとても早く感じた。

もう少しで駅につくタイミングでこの哀れな日本人に席を譲ってくれる人が現れ、ちょっとだけ座ることができた。
皆が降りる準備をしている間、おっさんが当然のように自分の膝の上にでかい荷物を置いてくる。当たり前という顔をし過ぎていて、別に怒りも湧いてこない。

ダディ、あなたをゆるそう...。

列車は、遅れるどころかちょっと巻きで、無事プネーに到着した。

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