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同情は大きなお世話!?良い共感 vs 悪い共感をヒュームとシェーラーが徹底比較

もしも著名な哲学者や心理学者が現代にタイムスリップして、私たちの身近な悩みや疑問に答えたら……?

本日のお悩み

昔から、友人や知り合いからよく相談を受けるタイプで、ちょっとした悩みでも「聞いてほしい」と声をかけられることが多いです。私自身、人の気持ちに寄り添いたいと思うあまり、つい相手に同情しすぎてしまうところがあります。その結果、ただ相手の気持ちに同調して、2人で落ち込んでしまっているだけではないかなと思うこともしばしばです。共感力は自分の強みでもあるので大切にしていきたいとは思うのですが、同情や共感とどううまくどううまく付き合っていけばいいのかと迷っています。良い共感と悪い共感があるとしたら、それぞれどんな共感でしょうか。

本日のゲスト

デイビッド・ヒューム (David Hume, 1711-1776)

イギリス経験論の代表的哲学者。理性よりも感情が人間の行動を動かす源泉であると考えた。
道徳や共感についての考察でも有名で、人間の「情動」の大切さを主張した。

マックス・シェーラー (Max Scheler, 1874-1928)

ドイツの現象学の流れをくむ哲学者。愛や共感、価値倫理学など、人間の感情世界を奥深く分析。
「他者の感情に入り込む」ことを理論化し、共感の多層性を解き明かした。

対談

司会者
皆さんこんにちは。本日は「同情に意味はあるのか」というお悩みをもとに、二人の哲学者を招いて対談を行います。

デイビッド・ヒューム
僕は人間を動かすのは感情だって主張してるんだよね。『理性より先に感情がやってくる』ってやつ。

マックス・シェーラー
私も共感の大切さは認めてるけど、どんな共感にもいろいろあるからね。そこを今日は徹底的に掘り下げたいと思うよ。

司会者
では、まず相談者さんの状況を少し整理してみましょう。相手の気持ちに寄り添いすぎて、自分まで落ち込んでしまう…そんな経験は、お二人から見るとどう映りますか?

デイビッド・ヒューム
まあ自然なことだと思うよ。人間には共感が備わっていて、他者が悲しんでいれば自分も自然と沈んだ気持ちになるもんだ。

マックス・シェーラー
確かにそれ自体は自然な反応だね。僕はそれを「同情」と呼ぶけど、その先に「憐憫」とか「真の共感」とか、もっと複雑な要素があるんだ。相談者さんの場合は、ただ同調するだけで終わってしまっている感じがする。

【メモ】マックスシェーラーは「同情」「共感」「憐憫」を分けて考えた

同情 (Sympathie):相手の悲しみや喜びを見聞きして「かわいそう」「良かったね」と感じる感情。他者の感情に参加しようとする点は評価できるが、しばしば表面的なレベルで終わりやすい。

共感 (Einfühlung):相手の内面世界に深く入り込み、その人の感じ方や考え方をあたかも自分が体験するかのように理解する。同情よりも踏み込んだもので、相手を独立した主体として尊重しながら、内面的経験を共有する姿勢を指す。

憐憫 (Mitleid):相手を「哀れな存在」「助けを必要とする弱者」と見なし、上から目線で「かわいそうだ」と感じる感情。相手の主体性を認めないまま、相手を一方的に弱者扱いする態度につながる危険がある。

司会者
なるほど。「ただ同調する」ってどういうことなんでしょう? 自分も落ち込んでしまうというあたり、実は悪い面が出ているのかもしれませんね。

デイビッド・ヒューム
そうなんだよ。例えば、誰かがものすごくネガティブになっているときに『ああ、あなたは本当に不幸だ…』と一緒に沈んでしまう。これ、実はあんまり建設的じゃない。いわゆる「悪い共感」だと僕は思う。

マックス・シェーラー
うん、私は「憐憫 (Mitleid)」になりかねないと思う。

司会者
ではシェーラーさんが考える「憐憫」とはどこが問題なんでしょうか?

マックス・シェーラー
憐憫の怖いところは、相手を「かわいそうな存在」に固定してしまう点だね。『あなたは何もできないから私が同情してあげる』みたいな態度になりがち。そこには相手の主体性や可能性を見ないまま、「悲しみを共有するだけ」という落とし穴がある。

デイビッド・ヒューム
それに加えて、相手と一緒に沈むならまだしも、下手をすると相手以上に落ち込んじゃう人もいる。その結果、「一体誰が誰を助けるんだ?」って状況になっちゃう。

司会者
相談者さんは「共感力は自分の強み」だと感じてるようですが、なんとか“良い共感”を発揮したいってことだと思うんです。そこをどうアドバイスしますか?

デイビッド・ヒューム
良い共感っていうのは、やっぱり相手の気持ちを共有しつつ、そこから「どう行動するか」を想像して一歩踏み出す力になることだね。つまり、『あなたの悩みに胸が痛む。さて、じゃあどうしようか?』って感じ。

マックス・シェーラー
僕は「真の共感 (Einfühlung)」って言葉を使う。
つまり相手の視点に深く入り込んで理解するんだけど、相手を尊重して「君はどうしたい?」って常に問いかけるんだ。自分が相手を助ける“主役”になろうとするんじゃなく、相手を主役にする。これが意外と難しいんだよ。

【メモ】真の共感(Einfühlung)とは…他者の内面をあたかも自分のように追体験しつつ、相手を独立した主体として尊重する態度。

司会者
なるほど、相手を主役に…。ヒュームさん、どうでしょう? 理性を重視する考え方もありますよね。

デイビッド・ヒューム
僕は「理性そのものが人を動かすんじゃない」と思ってるけど、とはいえ感情だけに流されてしまうのは危険でもある。何かしらのバランスをとりながら、相手にとってベストな道を想像する“想像力”を働かせることが大切だよ。

司会者
相談者さんが言うように、どうしても落ち込みがちになってしまう場合、その“想像力”や“相手の主体性の尊重”をどう育てればいいでしょう?

デイビッド・ヒューム
例えば、『一緒に落ち込むんじゃなく、どうすれば笑顔に戻れるかな?』って考える癖をつけるのはどうかな。今はスマホもあるし、元気が出る動画を一緒に見に行くとか。小さなことでいいんだよ。

マックス・シェーラー
確かに、笑いってすごく大切だよね。悲しみに沈むだけじゃなく、『そこからどう切り替えるか』を一緒に探す。相手の感情の流れを“体感”しつつ、先へ先へと目を向ける感じ。

司会者
そうしてみると、相談者さんがやっている「ただ相手の気持ちに同調する」状態からは、一歩進んだ形になりますね。確かに少しは肩の力を抜くことも必要なのかもしれません。

デイビッド・ヒューム
肩の力が入りすぎると、どんなにいい共感でも息切れしちゃうよ。共感疲れって言うじゃない? 相手の悲しみに寄り添いすぎて自分も寝込むようじゃ、助け合いもなにもできない。

マックス・シェーラー
だから「悪い共感」は、自分のエネルギーをどんどん奪っていく共感ともいえるよね。相手にも成長の余地を残さず、自分も疲労困憊する。その結果、みんなが不幸になっちゃう。

司会者
お二人が言う「良い共感」は、相手と自分、どっちも幸せにできる可能性を広げる共感ってことですか?

マックス・シェーラー
そうそう。相手を尊重して、『あなたはどう感じ、どこに行きたいのか?』を大切にしつつ、一緒にその道を探る。そこには優しさだけじゃなく、相手に自主性を認める勇気も必要だよ。

デイビッド・ヒューム
そして、共感が行き過ぎてしまったら、一度距離を置くことも大事さ。『今は自分も疲れているから、ちょっと落ち着いたらまた話を聞くよ』って言う勇気。それも立派な判断だ。

司会者
なるほど。常に全力で共感モードじゃなくて、ちょっと冷静に引いてみることも「良い共感」の一環になるんですね。

デイビッド・ヒューム
そうだね。共感は人を結びつける力だけど、使い方を間違えると自分の首を絞めるリスクがある。まずは自分が健康で、元気であってこそ相手をサポートできる。

マックス・シェーラー
そうやって自分の余裕を大事にしつつ、相手を一人の主体として尊重する。これが「良い共感」の基本のキ。相談者さんが少しでも参考にしてくれたら嬉しいね。

まとめ

良い共感とは、相手の感情に寄り添いつつも「相手の主体性を尊重し、共に前向きな方向へ進む力」となるもの。自分の余裕を確保し、相手を助ける“主役”はあくまでも相手自身であるという意識がポイント。

悪い共感とは、単に相手の悲しみに巻き込まれて共倒れしたり、相手を“かわいそうな人”と固定してしまうような在り方。一緒に落ち込み、建設的な動きが取れないだけでなく、双方ともに負担がかかる。

ヒュームとシェーラーの違い:
ヒュームは「人間は感情によって動く」という思想から、共感を道徳や社会性の基盤としている。行き過ぎによる理性の喪失や偏狭的な共感の危険も指摘。
シェーラーは「憐憫」「同情」「エンパシー」など、共感の多層性を区別。真の共感は相手を主体として尊重するところにあり、そこから愛や連帯が生まれると説く。

本日のゲストの詳細

デイビッド・ヒューム (David Hume, 1711-1776)

イギリス経験論を代表する哲学者。理性よりも感情に重きを置き、人間の行動や道徳を分析した。『人間本性論』などの著作で、共感が社会的秩序を支えるエンジンであると説いた。

マックス・シェーラー (Max Scheler, 1874-1928)

ドイツの現象学の流れをくむ哲学者。愛や共感、価値倫理学などを研究し、感情の階層構造や他者理解のあり方を精緻に論じた。共感を多層的に捉え、相手の主体を尊重する姿勢を重視した。

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