17
私たちの他に客はいなかった。だから、自然と会話の熱は高まったのかもしれない。
「それならさ、ずっと終わることのない物語を一緒につくろうよ! 書き続けてよ、私にもその痛みを分けてよ、一人で抱え込まないで……!」
気がつけばそんなことを言っていた。終わらない物語ってなんなのか私もよくわからなかった。それでも、ふと口にしたその言葉は嘘じゃないと心が強く知らせている。
夕香の瞳から一粒の雫がこぼれ落ちた。それはその一部を失った星に着地して、静かに還っていった。
泣いた顔なんて見たことがなかったから、とても動揺してしまう。どうしよう、言っちゃだめなことを言ってしまったかもしれない、やばいぞ……。
「あ、えっと、そういえばこれ飲んだことなかったでしょ、ね、すごく美味しいからあげるよ、どうぞ、うん」
「え、急にどうしたの?」
クスッと笑いながらいきなりそんなことを言われたものだから、さらに驚く。
「や、その、悲しい時は甘いものをとったら元気になるかなー、って? ……あー、えっと、泣かせるつもりじゃなかったんだ、ごめん、ほんとごめん」
もっと笑顔になった夕香が言う。
「ゼリーも甘いよ? 心配してくれたんだよね、ありがと。悲しいんじゃなくて、すごく嬉しかったから」
「え、そうなの……」
「そうだよー」
「よかった、触れちゃいけないことを言っちゃったかなと思ったから、そっか、よかった……」
「うん、聞いてくれて嬉しかった、ありがとう。その、終わらない物語ってすごくいいね、どうやってやるのかはわからないけど、やってみたいとすごく思う」
「ほんと? ありがとー……! でも実を言うと私もよくわかってないんだ…… なんかいいなって思ったから言っただけで……」
「うーん…… あ、そうだ、見つけたものを、感じたことを物語として書いていってよ、そうしたらきっと終わらない物語が、夕香が書き続ける限り続く思い出が、この世界にずっと残り続けるはずだから。だから私も力になりたいんだ。一緒にたくさん出かけて、残していこうよ」
ただ一緒にどこかへ遊びに行きたいのはそうなのだけれど、何か、夕香が新しいものを見つけてくれるんじゃないかという微かな期待感がそこにはあった。
「ありがとう……! わたしは、自分でも知らない何かを、誰かに見つけてもらいたいのかも。だからずっと本の世界に逃げるように生きてきたのかな。でも、瀬奈が言ってくれたように、自分で物語を作ることを通じて、見つけることができるかもって、思った」
「うん、いいねいいね。……あー、よかったよ、ほんとに笑顔になってくれて」
「心配かけてごめんね……! このゼリーちょっとあげるよ」
「お、ありがと」
甘いはずのゼリーは、やっぱり少しだけしょっぱかった。