12
本格的に書き始めてから、わたしの生活は忙しくなった。
夏の暑さは、過去のつらさやあの夢のこと、日頃のパッとしない気分を一時的ではあるものの全て忘れさせてくれた。まぁ、暑いといってもそれは移動の時だけで、執筆中は冷房の効いたとっても涼しい部屋なのだけれど。
週五日学校へ通い、今日もこうして午後の授業が始まる。現代文。といってもテストだった。得意科目であるこれを素早く終えて、誰もいない左を向いて、ぼーっと空を眺める。だんだんと気温が上がってきていた。この頃になると、思い出すことがある。
「ねぇ、夏の大三角を見ようよ!」
そんなことを言っていたのは、中学の頃の友達。
「またあの星空が見たいな、見えるのかな」
折れたシャープペンの芯は、誰にもその存在を気づかれることなく、床に落ちたまま。
ところで、ブログは結構人気が出てきていた。そしてそのことに大きく浮かれていた。わたしもついに「夢」じゃなく、現実的な目標を見つけたかもしれないって。だけど、その熱も結局は一時のものに過ぎないと知るのはかなりの時間が経ってからだった。
そんなこんなで、特になんの変わり映えもない日が、今日もまた終わった。
そうして日々を繰り返して、授業期間も終わり夏休み。友達は瀬奈しかいないし、彼氏もいない。クラスの男子はみんなつまらないから。つまらないというか、いや、つまらないということにしておこう。
おかげで一気に書き上げることができた。もちろん書くだけじゃなくて、瀬奈といつものカフェで他愛もない会話をしたり、ショッピングに出かけたりして。特にこれといったイベントもなければアクシデントが起こることもなく、穏やかに楽しく時間は流れていった。
*
そして普通に何もなく授業は始まっていて、わたしは夏休み前と変わらず過ごしていた。変わらずといっても、少しだけ変化はあって、それは何も書かなくなってしまったということだ。
高校生の夏といえば、それは無敵の期間。何も怖いものはなくて、どんなことだってできる気がする。わたしはそんなにはしゃぐタイプではなかったけれど、でも少し浮かれていたということなのだろう。
友達は変わらず瀬奈だけ。まぁ友達といっても、わたしは人を友達と思う基準がどうやら普通より高いらしいから、きっと向こうからすれば友達と思っている人は、もっと沢山いるのだろう。そこから深く新しい友人関係を広げようかな、とも思うけれど、「友達」はいつも向こうから話しかけてきてくれるし、その時間は楽しかったから、特に何かを新しく始めることは結局なかった。一人で本を読むことも好きなこともあって。
だからこそ、ちょっと見つけた気になっていた物語を紡ぐことは、わたしの気分を高揚させていたのだと思う。夢でみたことも相まり。そこに何の関係もないことはわかっていたのだけれど、わかりたくなかったのかもしれない。
クリアファイルに入れられて本棚の奥底、光の当たらないその場所にしまわれたそれには、『大好きなものって何?』と書かれたテープがすみっこに貼られていた。