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「こんなの買ってみた」
ついに私はエレキベースを買ってしまった! ギターじゃやっぱりこの深い低音は出せないから。そう、ドラムマシンとエレキギターとこのベースを使って曲を作るのだ。ピアノと歌は……どうしよう。なくていいかな。ロックなインストで。
「うゎー、またいいの買ったねぇ」
そういう夕香も結構良いパソコンを買っていた。ブログが何気に収益を産んでいるらしい。もちろん私もずっとそれは読んでいる。この前は『この世界はすでに美しいもので満たされているのに、なぜわざわざそこにないものを求めるのだろう。自然はいつだって昔から完璧に完成されているじゃないか』となんだか難しげなことが書いてあって、さすがだなと思った。
「夕香も結構奮発したよねー」
「デザインに惹かれてこれにしたけど、正解だったよー! 色々とありがとう」
いつもの喫茶店で夕香のパソコンのセットアップをする。ちなみにりんごマークが描かれているもの。ぶどうでも四つ窓でもない。スマホをそれに近づけたら、簡単に連携することができ、すぐに完了した。……まぁ、知ってた。流石に眠いから早く家に帰って寝たかったのだけど、夕香に「どうしてもわからないからやって!」と言われたので引き受けた。まぁ、電気屋に行こうと誘ったのは私だし。
ところで私は今、いつものようにいつものを飲んでいる。ある時マスターから聞いたけれど、このぶどうは彼女の実家が営んでいる農園の、それも世界中から取り寄せの注文が入る一流ブランド品を贅沢に使っているものらしい。それをジュースにして席まで持ってきてくれるなんて、とても贅沢だと思う。いや、飲み物を作って運んできてもらうのはお店だから当然なのか?。お店の人はマスター一人しかいないし。それより。
「ねむい……」
私のMy new gear…を開けるのは家に帰ってからにしよう。
目を閉じかけていると、誰かがマスターと難しそうなことを話しているのが聞こえてきた。あれ、他にお客さんがいたのか。眠かったので気が付かなかった。夕香もMy new gear…?(パソコン)のすべすべ具合に感動して気が付かなかったようだ。
「……何故この世から争いは無くならないのだろう。皆が穏やかに生きていたら、心はいつも暖かくて、人に優しくできると思うのにって。私はいつもそう思いながら書いているんです」
「……! ねぇ瀬奈、あれ…… あの声は…… 望月先生だ……!」
「なんと……! 声かけてきたらいいんじゃない?」
「……いや、緊張が…… うーん、でも…… あー! 行ってくる……! この千載一遇のチャンスを逃すわけには行かない!」
そんなわけで私は、ベースと一緒に買っていた猫のぬいぐるみを枕にして机に頭をあずけた。