——今から二年前、十四歳の夏。互いの親の目を盗んで、二人で見に行った、住宅街の合間にある、小高い丘に寝転がって見上げた紺碧の夜空。そこに大きく輝く満天の星々は、とても力強くて、でも繊細で。わたしの心を掴んで離さなかった。絶対に届かないとわかっているのに、だけど手を伸ばしたその距離は、実はすぐそばにあるんじゃないか、と思うほどに近くて。なにより、親友と一緒に星空を見に行けたことがとても嬉しかった。
彼女は今、どうしているのだろうか。今でも親友と呼んでいいのかな。あの日から突然会えなくなって、連絡も取れなくなった。周囲もそれについて触れてこない。わざと触れないようにしているんじゃないか、なんて思ってしまうほどに。特に何かをしてしまった心当たりはないのだけど、だから余計につらいのかもしれない。風の便りも何もなく、もしかしたら本当に何か良くないことがあったんじゃないか、もう二度と会うことはできないんじゃないか、そんなことを考えてしまう——
「だめだだめだ、何か書かないと。わたしだけの物語を」
ノートを引き出しにしまって、再び姿を現した原稿用紙を見据える。それはさっきよりも少しだけ、くしゃっとしていた。
『——夢で見た、お告げのようなもの。いつもは夢なんか見ないでぐっすり眠れるタイプなのだけど、その日だけは、驚くほど鮮明な夢を見た。
「これを君に託したい」
顔も知らないその青年から渡されたそれは、一冊の本だった。
「え、待ってください、どういうことですか!」
「少しづつ書き溜めてきた文章。確かな未来を夢見て物語を書いてきた。描いてきた。だが、私はこれ以上生きることができないみたいなんだ——完成を楽しみにしているよ」
私の質問に答えることもなく、ただそう言い残して、彼は光り輝く粒子となり宙へ消えていった——』
「あー、ちがう! 全然うまく書けない……わたしが書きたいのはこんなんじゃないよ……」
いつのまにか頭へ移動していたシャープペンに、髪が巻きついて解けなくなってしまった。
「ほどけない……」
「解けない運命の出会い、なんてものがあったらいいな……」
疲れてしまったので今日はもう書くのをやめる。切れた毛先が僅かに絡みついているそれを軽く机の上に放ってから、頭もそこに預けた。ストップウォッチはまだ鳴りそうにない。