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 月曜日。

「やばい、全く眠れなかった……」

 今日は1限から現代文の授業がある。しかもテスト。現代文といえば夕香の得意科目。日頃から本を読んでいるからか、特に何も苦労せずに成績優秀だ。私は……ダメだ。しかも昨日変な夢を見たせいでどうも調子が悪い。

 夕香が先に席に座っていた。

「おーどうした、珍しく遅刻か?」

「遅刻はしてないでしょ」

「ははは、確かに。でも目の下のクマすごいね、もしかして寝てない?」

「やっぱわかる? そう、一睡もできなかったんだよ……」

 授業が始まるまでの間、昨日のことを話した。といってもすぐにテストの時間になってしまったので、トンネルを歩いているところまでしか言えなかったのだけど。

「『私の心の在り処は、どこだろう。少しでも寝返りを打ったら雲海へと落ちてしまいそうなその距離で、荷物もそのままに今日は眠りに落ちた』」

 なんの偶然か、テストの出題文は夕香の好きな望月先生が書いた本からだった。

「私の心の在り処って、どこ?」

 窓の外に目をると、相変わらず雲はのんびりと流れている。

「あの雲の上には、先生が思う島が存在していて、そこにはもっとすごい雲海があるのかな」

 終了を知らせるストップウォッチがけたたましく鳴り響く。

「あ、全然解答用紙埋まってない、終わった」

 二コマ連続で使ってのテスト時間だったので、その後は昼食の時間になった。教室のいろんなところから、今終わったばっかりの問題についての話が飛び交っている。

「ねえ瀬奈どうだった?」 

 余裕でテストを終えたであろう夕香が、笑顔で聞いてくる。他意はないようだ。

「うーん、よくわからなかった。やっぱり私は数学と物理が得意だなー」

「さっすが瀬奈だね。わたしは理数系はまじでわかんないや」

「この二つは、家庭教師の先生が超イメケンだから頑張ろうって気になるのかもしれないといつも思っている」

「え、それ初めて聞いた、めちゃくちゃ羨ましいんだけど」

「でしょ、羨ましいでしょ」

「……でもさそれさ、なんか変なこととか、なんかそういうよくないこととか起こったり起こってしまったりしないの? だって瀬奈もかなり可愛いほうじゃん」

「それがねー、何もないんだよ。本当に何もない。先生すでに結婚してるし、あといつもリビングでやってるから、常にお母さんとお手伝いの人が見てる。あ、そういや女性には興味がないらしい」

 夕香のさっきまで勢いとの笑顔はどこかへ行ってしまった。

「勉強教わるだけのはずなのになんでがっかりしてんだよ」

 そうツッコミを入れて夕香の肩を軽くぽん、と叩くと、またすぐいつもの笑顔が戻ってきた。ああ、この無邪気な感じがとってもいいな。

「あれてかさ、さっきのテストの文章、夕香がガチ恋してる先生のじゃなかった?」

「あー、そうだったよね、そうそう。そうなんだよ。先生が書いたもの。内容が良いのはもちろんなんだけど、すでに知ってるからテスト的にもひじょーにありがたい」

「いいなー、それ! でも数学もそんな感じか」

「それぞれ得意なものがあるのだねぇ…… あ、そういえば朝の続きまだ終わってなかったよね。続き聞いてもらってもいい?」

「あ、そうだった。もちろんいいよ」

「ありがと」

「ちょっと重いかもしれないんだけど……」

「なるほど……」

「なんか勝手に血だらけにしてごめんよ」

「いや、それは別にいいんだけど…… あ、それで何か書けるかもしれない」

「……! おー、いいじゃん、それ!」

「あ、じゃあさ、この後電気屋行かない? 私ちょっと買いたいものがあってさ。で、夕香もパソコンを買ったらきっともっと書けるようになると思うんだ」

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philosofy
(´・ω・)つ旦