18
いつのまにか森の中にいた。暗がりをずっと一人で歩いている。空を見上げてみても漆黒がどこまでも続いているだけ。今日は遠くへは行きたくないと願ったところでそれは叶わない。月夜に照らされて静寂に染まるその森は、葉を揺らす。私以外に誰もいないここで、木々が揺れる。舗装されていない足場は不安定で、暗闇を歩く自分のシルエットは、しなる木々のように震えている。
体は自然の優しさと恐ろしさを感じたのか、心臓の音が聞こえる。
と思っていたら、どこまでも続く狭いトンネルの中を歩いていた。あぁ、これは夢だ。わずかに光る街灯は、ゆらめくようについたり消えたりを繰り返している。くたびれた2人がけのベンチと、その上には小さな屋根。自動販売機はジジジ、という音を立てながら何よりも強く存在を虚空へアピールしている。よくわからないけど、そんなようなものが等しい間隔でどこまでも続いていた。夢の中の私は、ちょうど今日カフェへ行った時の格好だったから、イヤホンがあった。大音量で音楽を聴きながら、そんな景色を流してゆく。鼓膜を破って欲しかった、もうこれ以上何も聞こえないように。大してうるさくもないのに、ノイズキャンセルをして全てをシャットアウトする。
好きな音楽を聴いている時の、脳から何かが放出されているのがわかる感覚。あれってなんだろう。そんなことを思う余裕が生まれた。
自動販売機で飲料を買った。よくわからないでボタンを押したら、レトルトの夏野菜カレーが出てきた。それを最後に、全てのボタンのランプは、赤色でバツ印を後ろから僅かに照らしている。
——どれくらい歩いただろう。
上の方に小さく、緑色で非常口と書かれたドアがあった。錆びついたドアの上の方にスプレーでそう書いてある。大体こういうのって光ってるランプな気がするけど。
ずっと同じところを歩いているのも飽きたから、とりあえず軽い気持ちで開ける。
一瞬、目が無くなったのかと思うほど眼前が白くなり、どこまでも透き通った空気が鼻腔を吹き抜ける。
その扉の向こう側には、どこまでも広がる圧倒的な青空と、はるか眼下には無限に思える海が広がっていた。あまりの鮮明さに、息をのみ、放心状態となる。
先ほどとは打って変わって、どこへでも行けそうだ。
しかし、足元には僅か3段で途切れている階段と、錆だらけの鉄柵に絡みつく枝葉が鬱蒼と生い茂っているだけ。
「あれ、勇気を持って扉を開けたのに行き止まり⁉︎ ねぇ夕香、どうしよう……!」
「わたしだってわからないよ! 戻っても何もないし…… もうわからないよ……」
いつのまにか隣に夕香がいた。が、その手は真っ赤に染まっていた。
「……! 手、どうしたのそれ!」
「ああ、これはガラスが刺さっただけだよ」
「刺さっただけって!」
「いつか買おうと、そのショーウィンドウを眺めるようにしていたころが一番幸せだったのかもしれないなって。一度中に足を踏み入れたら窓が粉々に砕け散って、わたしを刺したんだ」