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2025年予想時事問題 第1位 令和の米騒動

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はじめに

2025年もまた、「各社重大ニュースに載っていないが、出題されそうな時事問題」を取りあげます。本文は無料で読めます。末尾の予想問題は有料(500円)です。問題のリード文と1問目は無料で読めます。お買上げいただければ、残りの問題を見ることができ、解答用紙をダウンロードできます。よければご利用ください。
更新履歴
2025年1月17日 初版投稿
2025年1月18日 細部を修正し問題を1問追加

1 令和の米騒動とは

2024年8月上旬から8月末にかけて、スーパーから米が全くなくなったことです。幸い9月に入ると米は店頭に並ぶようになりましたが、値段はそれまでの2倍近くになり、2025年1月現在でもその状況は続いています。
「米騒動」は、もともと大正時代の1918年に起こったものを指します。また1993年(平成5年)に起こった大冷害のため、タイなどから米を緊急輸入した「平成の米騒動」が知られています。今回の「令和の米騒動」はこれらに比べると、それほど深刻な影響はなかったといえます。ですが今回の米不足は日本の米産業が抱える問題点、ひいては日本の農業全体にある問題を可視化したと思います。また日本では「何かあるとすぐにスーパーからものが消える」ことも、改めて明らかにしたように思います。
そこで令和の米騒動の原因を探り、その背後にある問題点を明らかにしたいと思います。

2 「令和の米騒動」の原因

宇都宮大学の小川真如さんは、供給の減少と需要の増加、そして流通の混乱が合わさって、米不足が起こったとしています。小川さんの論文から、「令和の米騒動」の原因を探ってみましょう。

<供給の減少>

①食料用米の生産減少。
国が米の生産を減らす「減反政策」は、公式には2018年に終了しました。ですが現在でも農業再生協議会などが「生産の目安等」を示しており、多くの県はそれに従って年々米の生産を減らしています。これは日本国内の米の需要が年々下がっているためとされています。2024年は前年比8万トンの減産となりました。
②2023年猛暑による品質の低下と「ふるい下米」の減少。
2023年は猛暑となり、新潟県産のコシヒカリは大きく質を落としました(このため新潟では「暑さに強い米」の研究・生産が進んでいます。「新之助」や「コシヒカリ新潟大学NU1号」など)。猛暑によって、米の粒は大きくなりました。そのため「ふるい下米」が大幅に減ったのです。
「ふるい下米」は米をふるったときに下に落ちる、規定より小さい米のことで、米菓やお酒などの加工用として利用されます。2022年は51万トンでしたが、2023年は32万トンへ減少しました。業界には「国産米じゃないとダメ」という会社があり、そうした会社は高くても国産の食料用米を購入しました。2024年度が始まった段階で、加工用米が不足し、その分食料用米も減っていたのです。
加工用米については政府が2024年7月に備蓄米を放出し、不足は解消しました。ですが食料用米については放出しませんでした。理由は後で述べますが、これが米不足感に拍車をかけることになります。
③8月は「端境(はざかい)期」。
もともと8月は稲刈りの直前なので、米が不足する傾向があります。

<需要の増加>

①米は割安感があった。
コロナ禍と物価高騰のため、自宅で作って食べる内食が増加しました。その中で小麦を原料とするパン、パスタなどは値上がりしました。20年を100とした消費者物価指数は、24年6月は食料品が116と大幅に上がりましたが、米類は107とそれほど上がりませんでした。スーパーによる値下げ圧力も強かったと指摘されています。一方小麦が原料のパンは121、麺類は120と大幅に上がっています。米は主食の中でもっとも安く買えたのです。

小川真如「2024年夏におけるコメの品薄の要因と課題 ―「令和の米騒動」と呼ばれた事象をめぐる総合的研究―」より http://nohken.or.jp/NOGYOKENKUYU/No.37-2024/2024-14_ogawa.pdf

②インバウンドの増加。
外食業者による業務用米の需要が増加しました。小川さんは5万トン程度需要が増えたと推測しています。2023年は生産が8万トン減少していることを考えると、無視できない需要の増加といえそうです。

<流通の混乱=スポット市場での米不足>

日本の米市場は大きく、相対市場とスポット市場に分かれます。
相対市場は生産地と消費者が直接、大規模に取引します。田植えの段階から取引することもあり、長い時間感覚で取引します。外食産業など、確実に多くの量を必要とする業者は、この取引を使います。
一方スポット市場は、一時的な米の需給の変化に対応する市場です。スーパーなどの小売業では、急に米が必要になったり、余ったりすることがあります。そうした米を売買する市場です。専用の取引会社が売買し、短い時間での取引となります。
相対市場は安定している分、急な需給の変化には対応できない欠点があります。一方スポット市場は短期間に売買できますが、価格が乱高下しやすい欠点があります。
今回の米騒動の最大の原因は、スポット市場で米不足が起こったことにあります。米の需要は急激に高まりましたが、スポット市場の米が全くなくなってしまったために、スーパーは米を売ることができなくなったのです。
一方、相対市場では米不足はありませんでした。外食産業では米不足の影響はあまりなく、ご飯食べ放題が制限されるといった程度でした。
では、なぜスポット市場で米が不足したのでしょうか。理由は次の2つが挙げられています。
(1)「米が不足している」という情報が流れたため、パニック買いが行なわれた。
(2) 2024年8月8日に発生した日向灘の地震で、南海トラフ地震臨時情報が出たため、買いだめ意識が高まった。
日本では大きな災害が起こると、ペットボトルの水がなくなるなどパニック買いや買いだめが行なわれますが、米でもそれが起こったのです。

3 政府の対応

日本政府は多くの米を備蓄しています。この米不足に対し、政府の備蓄米を放出するべきという議論も起こりました。すでに述べたとおり加工用米は放出されました。ですが食料用の備蓄米については、解放しないと発表しました。
理由は簡単です。第一に、相対市場では米不足がなく、十分な在庫があったからです。第二に、8月後半には既に稲刈りが行われている地域があり、数週間後には新米が市場に出回る事は明らかだったからです。こうした状況で政府が備蓄米を放出すれば、米価が暴落するのは明らかです。これはスーパーにも流通業者にも米農家にも大きなダメージを与えます。そのために政府は放出をしなかったのです。
ですが、この政府の発表がパニック買いに拍車をかけた事は間違いないでしょう。

4 ミニマム・アクセス米(MA米)について

では日本政府の備蓄米はどこから調達しているのでしょう。国内で余った米を備蓄していると思われるでしょう。ですが実は、アメリカやタイなどから米を輸入して備蓄に充てているのです。
1995年、日本は当時のGATT(現在のWTO)の貿易交渉「ウルグアイラウンド」を受諾し、米の輸入を受け入れました。その結果日本国内では「新食糧法」(主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律)が成立し、米の売買が自由化されました。このときに日本は、高い関税を設定する代わりに輸入量の上限を設定し、その量は必ず輸入するとしました。これが「ミニマム・アクセス」です。
1999年に日本は米の貿易を関税化し、誰でも関税を払えば貿易できるようにしました。ここまでは中学受験でも学びます。ですがこれ以降も日本政府は、ミニマム・アクセスの分は「国際的な約束である」として、輸入を続けてきたのです。その量は77万トン(玄米ベース)です。2024年の米生産は683万トンですので、国内生産の約11%に当たる量を輸入しているのです。
もともとは安いアメリカやタイの米を輸入し、加工用に売却して利益を得る、という枠組みでした。2002年までは黒字でした。ですがそれ以降はアメリカ米が値上がりしたため、ずっと赤字となっています。そして現在は加工用米は10万トン程度で、60万トンが飼料として使われています。飼料用は加工用より安いため、赤字はふくらんでいます。農業ジャーナリストの山田優さんによると、累積赤字は2021年までに5700億円にのぼるといいます。

出典:税金500億円垂れ流し MA米いつまで財政負担を続けるのか【農業ジャーナリスト 山田優】(https://www.jacom.or.jp/kome/closeup/2023/230925-69551.php)

これまでの日本は、米が余っていたため、生産を減らす努力が行なわれてきました。ですがその一方で国内生産の約1割に当たる量を輸入しています。多くは飼料に使われているため、日本の飼料不足問題には貢献しています。また今回の令和の米騒動では、加工用米の不足に対応することができました。国が税金で米を輸入し備蓄することは、食料安全保障の面ではプラスであるといえるでしょう。一方、国内の米農家の減少を止めることはできていませんし、累積赤字、つまり国民の負担は増え続けています。こうした矛盾のうえに、日本の稲作は成り立っているのです。

5 「令和の米騒動」の結末と影響

9月に入ると次第に新米が売られるようになり、9月中旬には米不足はほぼ解消しました。「令和の米騒動」の影響は一時的でした。
小川さんは、「農政史上の重要なトピックとは位置づけられないであろう」としています。
一方小川さんは、二つのことが明らかになったとしています。第一に「コシヒカリ一強時代の終焉」です。2023年、コシヒカリの栽培面積は33.4%を占めました。2位のひとめぼれば8.5%ですから、現在も「コシヒカリ一強」です。ですがコシヒカリには「高温に弱い」という弱点があり、これが「令和の米騒動」の原因の一つとなりました。今後はコシヒカリの栽培面積は減り、高温に強い品種が主流となるだろうとしています。
第二に「国の政策が硬直化していること」です。今回政府は食料用米の放出は不要としました。それは相対取引米をはじめとした、市場全体の米は不足していなかったためです。そうした状況を大々的に国民に説明すれば、国民の不安はやわらげられ、パニック買いも抑えられたはずです。ですがそうではありませんでした。「政府の広報」がうまくいかなかったのです。また十分な在庫があり、備蓄米放出の必要がなかったのも事実でしたが、スポット市場の在庫がなくなり、国民が米を買えなくなったのも事実でした。国は備蓄米をスポット市場に供給することもできたはずです。国の米に関する政策が硬直化していることも明らかになったのです。これはミニマム・アクセス米の扱いとも共通します。
そしてもう一つ大きな変化が起こりました。9月以降出回った米の値段は、それまでのほぼ2倍となり、2025年に入っても下がっていないのです。これは今までの米の値段が「安すぎた」ことを示すのではないでしょうか。米はの値段はずっと上がらなかったために、ほかの食料品が値上がりする中人気を博しました。ですがその値段を維持したために、稲作は利益がなくなり、農家数は減少しました。2015年から2020年の5年間で、稲作農家数は実に25%も減少しています。「安い」ことは、消費者にとってはよいことであるように見えますが、値段が安すぎると産業が「持続可能」でなくなるのです。
消費者も「安ければそれでいいのか」を考える必要があります。「ものの値段を下げる」政策よりも、「賃金を上げて消費を増やす」政策の方がよいことが見えてこないでしょうか?

予想問題

2024年8月上旬から、スーパーの米コーナーから米が消えていきました。米を求めて複数のスーパーを回ったり、開店前から並ぶ人も出ました。お米の代わりに、ついにはお餅を並べるスーパーも出ました。こうした状況は、「❶令和の米騒動」と呼ばれました。
この米不足の原因のひとつは、2023年の気候にありました。現在全国で作付面積が一位の品種は❷コシヒカリですが、この年のコシヒカリは白く濁るなど質が悪化し、新潟県の一等米の割合はわずか4%でした。また米の粒が大きくなり、米をふるったときに落ちる「ふるい下米」が大幅に減りました。「ふるい下米」はお酒や米菓などの加工用に使われます。「国産米だけを使用」をうたっている業者は、食用の国産米を買うしかありませんでした。そのため2023年の段階で、米が足りなくなる兆候があったのです。
米不足のもう1つの原因は、「米の値段が他の主食に比べ安くなっていた」ことがあります。グラフは主な主食の価格の推移を示します。

米の値段は「令和の米騒動」が始まってから急上昇していますが、それまでは100以下であり、基準となる2020年4月(新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が出た月)より安くなっていました。❸一方パン、麺類は2022年初頭から値上がりしました。米はパンなどより安くなっていたため、需要が増えていたのです。
では実際にどのように米不足が起こったのでしょう。日本の米市場は、長い期間で取引する「相対市場」と、スーパーなどの小売業者が余った米を短期間で取引する「スポット市場」に分かれています。今回は「スポット市場」の米がまったくなくなったため、スーパーから米が消えたのです。ではなぜスポット市場の米が消えたのでしょう。ひとつは「米がなくなる」という情報を得た人たちが、「パニック買い」をしたためです。もうひとつは、8月8日に日向灘で起こった地震の結果、8月15日まで❹が発令され、米の買いだめをする人が増えたためです。
こうした事態に対し、国はどのような対策を取ったのでしょうか。加工用米の不足については、国は2024年7月に備蓄米を放出しました。一方スポット市場での米不足について、国は備蓄米を放出しませんでした。相対市場には十分な在庫があったためと、❺8月後半から稲刈りが始まっており、9月上旬には新米が出回ることが分かっていたためです。ただこれで国民の不安が静まったわけではなく、9月に入ってもしばらくの間はパニック買いが続きました。
結局「令和の米騒動」は、9月中旬になり、新米が出回ると沈静化しました。影響は一次的だったといえます。ですが国の説明は十分なものとはいえませんでした。また国が備蓄している米の処理をどうするのか、という問題も起こりました。❻国は1995年以来、一定量の米を輸入し続けてきました。その米をスポット市場に供給すれば、米不足は起こらなかったはずです。❼一方スポット市場に供給しなかったのは正解だったという意見もあります。国が備蓄した米を今後どのように扱うのか、国民が納得する方針を立てる必要があるでしょう。

問1 太字❶について
(1)「米騒動」とはもともと、1918年に起こった出来事を指します。このときは米の値段が上がり、米を食べられなくなった人々が米屋を襲いました。この米騒動は何県で始まったでしょうか。県名を書きなさい。

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