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2023年受験用重大ニュース 7社の比較
はじめに
昨年、一昨年に引き続き、各社重大ニューステキストの比較を行ないたいと思います。他塾のテキストの内容が気になったりしないでしょうか。また、塾に通わないで中学受験対策をしている方は、どのテキストを買ってよいか、迷うのではないでしょうか?
そこで、昨年の6社(学研、四谷、栄光、朝日新聞出版、サピ、日能研)に読売新聞を加えた、全7社のテキストを比較してみました。皆様の選択の助けになれば幸いです。
学研「2023年入試用 時事問題に強くなる本」
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本文150ページ、1500円+税
<構成と特徴>
社会は政治、経済、国際、政治・文化の4セクションに分かれており、全部で15項目あります。一つの項目は最初の2ページで内容を説明し、次の見開きには一問一答式の問題1ページ+通常のテスト形式の発展問題があります。社会はニュース解説を含めて68ページあります。
理科・環境は合わせて4項目、18ページです。
そして毎年おなじみの星占いが1ページあり、ここまで全部カラーです。
資料編は、用語集が8ページ、地図、年表、統計資料が8ページです。
最後に、記述も含めた予想テストが、社会2回分10ページ、理科1回分4ページあります。
昨年はTBSとコラボしていましたが、今年はありません。
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<利点>
・各社の中でも発売が一番早く、長時間学びに使えます。
・カラーページが多く、特に写真とイラストがカラーなのはよい点です。また本文も重要な点が赤で示され、どの言葉が大切なのかわかりやすくなっています。
・情報量がとても多く、上位校にも対応できます。
・問題のうち、最後の予想テストは、かなり解きごたえがあります。また理科を含めた問題ページ数は最大です。
<欠点>
・全ての項目の説明が見開き2ページに圧縮されているため、1ページあたりの情報量が多くなりすぎ、かなり見づらくなっています。追加説明を小さい字で行の下に入れているところが、見づらさを更に強化しています。
・テーマ別に4セクションに分かれているため、どの項目が全体で重要なのか、わかりにくくなっています(セクション内での重要性は分かりますが)。
・ロシアのウクライナ侵攻が「国際」の一部で、1項目4ページしかないように、明らかに重要な項目も1セクションに収められています。これによっても重点がわかりにくくなっています。
<このような人へ>
・見開きで情報が完結するため、時事問題を手早く学びたい人に向いています。また項目別に並んでいるため、知識を系統立てて学びたい人に向いています。
・ただしどの項目が重要なのかは本からは読み取れないため、別の情報を併用する必要があります。
四谷大塚「ニュース最前線2022」(発売:ナガセ)
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本文112ページ(うち8ページは暗記カード)、1600円+税
<構成と特徴>
4ページ単位で11項目あり、最後の11番は理科で5ページあります。編集側が重要だと考えている順に並んでおり、最初の2ページで解説、1問1問の基本問題1ページ+通常のテスト形式の発展問題1ページという形式です。
「あなたが生まれてから~12年の動き~」というページがあり、12年の動きをカラーで説明しています。これも基本問題1ページ+発展問題1ページがあります。
記述問題が5ページあり、各項目ごとに2問出題されています。最後に予想問題が7問、14ページあります。
資料にあたるページはありませんが、巻末の暗記カードが他社のような一問一答ではなく、複数の内容を答えさせる問題になっています。そこで資料的部分を補っています。
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<利点>
・判型が大きく、行間も大きいために見やすいです。
・「あなたが生まれてから」に類似するページは他の会社にはありません。
・独立した記述問題ページが用意されているのは大きなメリットです。また予想問題の質量も十分です。社会の問題ページ数は日能研とほぼ並び、トップクラスです。
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<欠点>
・他社に比べると明らかに項目ごとの情報が少ないです。特に安倍元首相が殺害された件についてはまったく触れられていません。
・優先順位に疑問があります。コロナについては半ページしかなく、「ペットにマイクロチップを埋め込む」と同じ分量です。
・カラーページは多めですが、肝心の本文にカラーがありません。予習シリーズはフルカラーなのに、このテキストはフルカラーではないのは疑問です。
<このような人へ>
・もう残り時間が少なく、急いで時事問題を完成させたい人。
・記述問題を強化したい人。
・最上位校の受験には正直辛いでしょう。最上位校をめざす人は、サピか日能研と併用する必要があると思います。ただ、それ以外の学校に対しては、十分な知識量があると思います。
栄光ゼミナール「栄光ゼミナールの重大ニュース2023」
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本文144ページ 1650円+税
<構成と特徴>
栄光の重大ニュースは、最初のカラーページ8ページがマンガという特徴がありました。ですが今年は写真で構成されるようになりました。このマンガは質が低く、登場人物も似ていなかったので、よい変更だと思います。
社会については12の項目から成り立っています。SDGs、参院選、コロナ、自然災害……という順番で載っていますが、SDGsと自然災害は6ページ、他は基本的に4ページで構成されています(2ページの項目もあり)。社会は全部で46ページあります。うち理科とも関係する項目が12ページあります。
理科は全部で18ページあります。
問題は基本的に最後にまとめられています。一問一答が社会6ページ、理科2ページあります。実戦形式の予想問題が社会10項目20ページ、理科4項目8ページあります。理科も社会も、「2022年の受験問題ではこのように出題された」という実例が示されています。
この他に用語集が9ページあります。
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<利点>
・他社よりフォントが小さいため、情報量が多く、説明も詳しいです。昨年から情報量が大幅に増えましたが、今年もそれを踏襲しています。行間がきちんと空いているため、読みやすさも十分です。
・実際の受験問題でどのように出題されたかの実例は非常に役に立ちます。
・理科の割合が多いです。
・「ない方がはるかにマシ」であったマンガがなくなったのは喜ばしい変化です。
<欠点>
・重要と考えている順に並んでいるようですが、6p、4p、2pの項目がバラバラに出てきます。重要な項目は本当はどれなのか、わかりにくくなっています。
・練習問題のページ数は十分ですが、記述問題は少なく、難易度も低めです。
・そして最も気になるのは、昨年、一昨年同様、中国を「脅威」として描いている点です(だいぶトーンダウンしましたが)。中国が軍事力や核兵器を増強しているのは事実ですが、ここは子どもに先入観を与えないような記述にして欲しいところです。
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<このような人へ>
・理科を補強したい人
・昨年の時事問題がどのようなものであったか確認したい人
・きちんと内容を読みこめば、最上位校にも対応できます。
朝日新聞出版「中学受験2023 時事ニュース完全版」
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本文130ページ 1600円+税
<構成と特徴>
昨年同様、この本は他社とコンセプトが大きく異なります。
①月刊のジュニアエラに載った記事を再編集
②朝日新聞の記者、ジャーナリスト、大学の先生が執筆に参加
③理科の割合が多い
④予想問題はなし、昨年どのように出題されたかはあり
まず、「問われやすいポイント」をまとめたページがあります。次には中学受験を経験した「美 少年」の浮所飛貴と那須雄登の対談があります。
「過去1年の重大ニュース」安倍元首相殺害とその背景を含めた、8つのテーマを1ページか2ページで解説しています。
「3大テーマを深掘り」では、SDGs、沖縄復帰、18歳成人を、各分野の専門家が詳しく解説しています。社会の解説は合計46ページあります。
理科の解説が23ページ、実際に出題された問題の例が9ページ、各月で起こった事柄を詳しく説明した「ニュースカレンダー」が49ページあります。
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<利点>
・問題例以外はほとんどカラーページです。
・最初に「問われやすいポイント」が示されており、どのニュースが重要なのかわかりやすいです。
・それぞれの説明はカラー写真やイラストが多く、わかりやすくなっています。特に「3大テーマを深掘り」は、解説が非常に細かくていねいで、その事柄をきちんと理解することができます。
・理科の割合は栄光より多いです。
<欠点>
・コンセプト上仕方ないのですが、予想問題はゼロで、今年の出題例が9ページあるだけです。問題演習をしたい場合は、他のテキストと併用する必要があります。
・縦書きで総ルビのため4年生でも読めますが、情報量が多く画面がごちゃごちゃしています。
・「3大テーマを深掘り」にはウクライナ戦争を入れるべきだと思いますが、そうではありません。昨年もコロナがないなどピントがずれている感がありましたが、今年もちょっとずれている感があります。
<このような人へ>
・「3大テーマを深掘り」で取りあげられているテーマを深く知りたい人
・受験を考えている4年生、5年生へ。受験前からぱらぱら見ておくと、時事問題への関心が増します。
・上位校の受験には向きません。問題演習のある他のテキストと併用する必要があります。
読売新聞社「2023入試に勝つ新聞記事」
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本文120ページ(うち8ページは暗記カード) 1450円+税
<構成と特徴>
読売新聞と関西の浜学園、東京の駿台・浜学園の共同編集です。
全体は5章に分けられており、「政治と社会」「経済と暮らし」「海外の出来事」「文化とスポーツ」の4章が社会です。5章は理科です。
各章は項目に分けられており、見開き2ページか1ページで内容を説明しています。4章で22項目あります。各章の最後には、一問一答式の確認問題1ページ、実戦形式の予想問題4ページ、記述を中心とした「適正・表現型問題」が1ページあります。
資料ページは各章の最後に分散して設けられており、全部で8ページあります。
理科は4項目あり、問題は社会同様計6ページあります。
一問一答式の暗記カードが8ページあり、84枚のカードになります。
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<利点>
・判型が大きく、フォントも行間も大きいため、各社の中で最も読みやすいと思います。
・最大の利点は、適正・表現型問題が各章最後に1ページあるところです。四谷同様、記述対策の量が多くなっています。
・情報が速いです。「侮辱罪」と「メタバース」など、他社では載っていない情報が本文にあります。
<欠点>
・項目数が多いため知識の幅は広いですが、一つ一つの項目の情報量は少ないです。
・学研と同様、テーマごとの章に分かれており、どの項目が受験で重要なのかわかりにくくなっています。
・カラーページが表紙のみで、あとは緑と黒の2色刷りです。カラーでは明らかに他社に見劣りします。
・ベースが読売新聞だけあって、中国を明確に「脅威」として記述しています。また沖縄問題など、政府側に寄せた記述も目立ちます。中学受験では「両方の意見・立場を知る」ことが求められるため、どちらかの側に寄せた記述は避けて欲しいと思います。
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<このような人へ>
・公立中高一貫校をめざす人へ。
・残り時間が短く、急いで時事問題をこなさなくてはならない人へ。
サピックス「2023年中学受験用 サピックス重大ニュース」
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本文176ページ(うち暗記カード8ページ) 1600円+税
<構成と特徴>
最初に「出そうな事柄ランキング」と、特集「ウクライナとはどんな国」「沖縄復帰50周年」がカラーで載っています。
本文は4章に分かれており、「激動する国際社会」「政治・経済の動き」「社会の動きと環境問題」が社会です。社会の解説は全部で18項目あり、70ページです。最後の1章は理科です。
各章の最初には「みんなで話し合ってみよう」というページがあり、何を考えるべきかが読み手に投げかけられます。そして各項目は情報が示されるだけでなく、読み手に「考えること」を促すようになっています。
予想問題は3章分で28ページあり、うち理科は4ページです。この他地図問題が4ページ、カレンダー問題が4ページあります。
資料のページが9ページ、用語集が8ページあります。
巻末に暗記カードが8ページあり、計84枚のカードになります。カードには「都市のスポンジ化」「アンコンシャス・バイアス」など、かなり新しい言葉も含まれています。
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<利点>
・最初に何が重要なのか順位を明記しているので、重要な順に取り組みやすくなっています。
・判型が大きく、行間も大きめなので、かなり見やすいです。
・各章最初の「話し合ってみよう」が重要で、これによって「何が問題なのか」「どう考えるか」が方向付けられます。「知識を覚える」より「事柄をもとに考える」ことを重視しており、本文の記述もそうなっています。思考力を鍛えるには最も適しています。
・暗記カードには最先端の知識が含まれています。
・それぞれの予想問題には長い記述、思考力が必要な記述があり、記述の練習になります。
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<欠点>
・予想問題の質は高いですが、量の面で見劣りがします。
・各項目の中に関連する項目が含まれることがあり(例えば「18歳成人」に「こども家庭庁」が含まれるなど)、混乱することがあります。
<このような人へ>
・さすがにサピで、思考力が必要な最上位校にも十分対応できます。思考力が必要だったり、記述が多い学校をめざす人は、まずサピを選ぶべきでしょう。
日能研「2023年度中学受験用 重大ニュース2022」(発売:みくに出版)
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本文200ページ 1500円+税
<構成と特徴>
大きく「第一編 ニュース解説編」「第二編 予想問題編」「第三編 資料編」に分かれます。
第一編は24項目に分かれており、最初の6項目は4ページで説明されています。項目7から22までが各2ページ、23と24が各1ページです。最初の6項目のうち、1が「ロシアがウクライナに侵攻」、2が「ウクライナ情勢による影響」ですから、日能研がロシア・ウクライナ戦争を重視していることが分かります。この他カレンダーや「○年前の出来事」があり、第一編は合計75ページあります。
第二編は一問一答式+記述問題の「確認問題」が23ページあります。全ての項目に確認問題が設けられています。次に実戦形式の予想問題が24ページあり、これは項目1から6の問題各4ページです(これには記述はほとんどなし)。
圧巻なのは第三編です。資料ページは22ページもあり、用語集は目次込みで39ページもあります(本文36ページ)。「LGBTQ」や「クォータ制」などのこれから取りあげられるであろう「新しい」言葉も多く取りあげられており、ここだけでも十分読む価値があります。
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<利点>
・制作側が重要だと考えている順に並んでいるため、どの項目が重要なのかがわかりやすいです。
・取りあげられている項目が24におよび、全テキスト中最多です。学ぶことのできる知識は最も幅広くなっています。また24項目全てに練習問題があります。
・巻末の資料と用語集は他社を圧倒しています。しかも出そうな用語には★がつけられており、どこを学ぶべきかもわかりやすくなっています。
・社会の問題のページ数は最も多くなっています(問題の総ページ数なら学研)
・内容充実の割に値段が安く、コスパは最高です。
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<欠点>
・毎年のことですが、理科がありません。
・問題の質はサピに比べると劣る感があります。記述問題は弱いです。
<このような人へ>
・最新の言葉について幅広く知りたい人へ。
・一問一答が多い学校や、「世の中の出来事をもとに答えさせる」「一見すると何を答えるべきかわからない問題」を出す学校に向いています。
7社の比較
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昨年とは尺度を変えて比較しています。読んだ中で最も優れているものを5、最も評価できないものを1として評価し、必ず5と1の間に収まるように評価しました。
やはりサピと日能研が強いです。学研と栄光も上位校受験に対応できます。朝日新聞出版はコンセプトが違い、直接比較できないことが改めて見えてきます。
どれだけ新しい事柄に対応できているかをチェックするために、安倍首相銃撃事件をどう取りあげているかを調べてみました。四谷以外は全て、事件自体は取りあげています。一方事件の原因となった統一教会との関わりについては、朝日新聞出版が見開きで大きく取りあげており、あとは学研と栄光が少しだけ触れているだけです。ここからも朝日新聞出版はコンセプトが違うことが分かります。
また、昨年は学研がTBSとコラボして情報を配信していたので、ネット対応をチェックしてみました。学研はTBSコラボを取りやめ、追加情報のリンクのみになっています。サピは追加情報に加え、解答用紙と解説がダウンロードできます。日能研は追加情報に加え、解答用紙がダウンロードできます。デジタル対応は、昨年に比べかなり後退した印象です。
運用の方法は?
昨年とあまり変わりませんが、各社の本をどのように運用すべきか、挙げてみましょう。
・最上位生はサピと日能研の併用がベストです。サピで思考力を育て、日能研で語句の知識を学べば最強です。
・一問一答系が多い学校や、初見で戸惑うような問題が多い学校は日能研が向いています。
・記述が多い学校や、最新の社会問題を考えさせるような学校は、やはりサピでしょう。
・公立中高一貫校をめざす人には、読売が向いています。
・受験直前に急いで学びたい人は、四谷、読売です。
・栄光、学研はほぼ同じレベルで、受験に必要な知識は十分学べます。カラーですがごちゃごちゃしている学研、二色で比較的見やすい栄光で選ぶとよいでしょう。
・朝日新聞出版は上位校には向いておらず、「見て確認する」ための本です。これから受験本番を迎える4、5年生に向いています。
おわりに
サピと日能研が2強、学研と栄光が追随し、朝日新聞出版は我が道を行く……という構図は昨年と大きく変わりません。ただ、四谷が問題ページ数を増やし、社会トップの日能研にほぼ並びました。
今後も激しい競争が続くでしょうが、各社基本的な構成は大きく変わらないと思われます。この記事を読んでおけば、2024年受験生が本を選ぶ際にも役立つでしょう。
昨年は「デジタル対応を進めた社が勝つ」と書きましたが、デジタル対応は各社ほぼ横並びで、本だけで完結するようになりました。動画作成はコストも時間もかかりますが、コロナ禍で各社とも動画対応はできているはずです。「動画配信を行なった社が一歩先を行く」ことは、改めて述べておきたいと思います。
時事問題対策は、改めて取り組もうとすると、分量的にも思考力的にもかなり大変です。ですから普段からニュースや新聞に触れ、時事問題について考えておく習慣をつけておきたいものです。そして時事問題は、「教科として学ぶ」ものではなく、「これからの社会で生きていくために、成長するために、必要な知識」です。これからの社会は混迷の度を増すでしょうから、時事問題は「生き残るために必要な知識」といっても過言ではありません。
ここで時事問題について学ぶことをきっかけに、世の中のことについて知り、考える習慣を身につけたいものです。
この記事は全文無料で読めますが、有益であった、面白かったという方は、ぜひ投げ銭をお願いします。あと4名ご購入いただいた場合、早稲アカのテキスト(四谷と並行して使うもの)を購入し、追加します。皆様により有益な情報を提供できると思います。よろしくお願いします。
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