著者自身による外国語論文紹介「企画趣旨」(森功次)【フィルカルVol.9,No.1より】
今号から新企画「著者自身による外国語論文紹介」をスタートする。これは、外国語で論文を書いた人にその論文内容およびその学術的背景などを紹介してもらう、という企画だ。
いろいろと考え方はあると思うが、外国語での論文発表は学術研究のある意味での「最前線」に参加することだと言っていいだろう。そこでは日本にまだほとんど十分に紹介されていない議論が行われていたりするし、前提されている知識も異なるだろう。世界中から投稿されるような査読の厳しいジャーナルに論文が掲載されることは、ひとつの偉業と言っていい(本企画には、そうした場に飛び込んでがんばっている人たちを顕彰したいとう思いが込められている)。
しかし最前線の仕事はそもそも一般読者の目には届きづらいし、評価も難しい。また、そうした場での専門的な議論が日本語で紹介されるようになるには、やはり一定の時間がかかってしまう。本企画の一番のねらいは、そうしたギャップを埋めるところにある。つまり、最前線の仕事とともに、その議論状況を一般読者に紹介していきたいのだ。執筆者たちには単に論文内容を紹介するだけでなく、その背景となる議論状況なども解説してもらうようお願いしている。その意味でこれは、ある分野の最新の様子が「速報」される、お得な企画である。
本企画のもうひとつのねらいは、最前線の人たちの仕事を紹介することで、若手研究者たちにひとつのロールモデルを示すことだ。どういう論文がどういう媒体で発表されているか、執筆経緯でどういう苦闘・挑戦があったのか、自分自身が書く論文と何が違うのか(そして何が違わないのか)。こうした点を考えてみて、もし「自分もこの場に参加できるのではないか」と思ったら、チャレンジしてみてもいいだろう。本企画が次の世代を刺激し、どこかの分野の開拓につながっていくことを望む。
記事一覧
秋葉剛史「真理の多元主義と真理付与者の理論」(Takeshi Akiba, Alethic Pluralism and Truthmaker Theory, Theoria, Vol. 89, No. 1, 2023)
植村玄輝「日本における現象学―応用分野における受容に焦点をあてた小史」(Genki Uemura, Phenomenology in Japan— A Brief History with a Focus on Its Reception in Applied Areas, F. -X. de Vaujany, J. Aroles, and M. Pérezts (Eds.), The Oxford Handbook of Phenomenologies and Organization Studies, Oxford University Press, 2023)
銭 清弘「芸術カテゴリーについての制度理論」(Sen Kiyohiro, An Institutional Theory of Art Categories, Debates in Aesthetics, Vol. 18 No. 1, 2022)
谷田雄毅「ルールとポイント―「意味」の概念はどのような機能を果たすのか」(Yuki Tanida, Rule and Point— What function does the concept
of “meaning” serve?, Review of Analytic Philosophy, Vol. 3, No. 1, 2023)宮園健吾・飯塚理恵「集団の認識的悪徳についての集団同一化説」(Kengo Miyazono and Rie Iizuka, A Group Identification Account
of Collective Epistemic Vices, Synthese, Vol. 202, No. 22, 2023)
森 功次
大妻女子大学・国際センター准教授。『フィルカル』副編集長。
note掲載にあたり最低限の修正を加えました。(フィルカル編集部)