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【検証】エルビンは柱となれるのか

どうもフェグリーです、ヤクルトファンの皆さんは明けましておめでとうございます!
最近カブスとヤクルトのポストの割合どうしようか勝手に悩んでおります。鈴木誠也と今永両選手を応援するという、数年前までは考えられない事態に困惑しておりますが引き続きよろしくお願いします。さて本当に長らくサボっていた検証コーナーを久々に復活させました。最近ヤクルトファンの皆さんが色々な角度で記事を書いているので便乗させてもらい、今回は期待値も被打率も高いこの男、エルビン・ロドリゲスについて語らせてください。

①2023年度のエルビンの投球を振り返る

正直ほぼ絶望しながら眺めていた23年シーズン半ばに突如として現れた期待の新星、エルビン・ロドリゲス。彼はMLBでも現在強豪に位置するレイズのメンバーとしてMLB出場資格を有しながらも先発の機会を求めて来日を選んだハングリー精神に富む有望株と注目を集めました。そんな彼は8月から二軍登板を挟んですぐに1軍の舞台に上がることになりました。その内容を振り返っていきます。

23年度の最終成績は添付のように7試合(6先発)を投げて33イニング防御率4.09と来日前の盛り上がりを考えると物足りなさを感じる方がいるかもしれません。しかしNPBも日々レベルが上がっており、バウアーも対NPB用の対策を講じないと打たれたわけでぽっと出の投手が簡単に封じ込めるほど甘いリーグでは無いことや、これが打高球場神宮と東京ドームのみの成績と考えたらよく頑張ったのではないでしょうか。できれば三振をもう少し取りたいですが四球も言われているほどでもなく(ここに少しカラクリはありそうだが)スタイル次第で大化けするかと。
ここからはもう少し詳しく彼の成績を見ていきながら何が良くて何が悪かったのかを考えていきたいと思います。

②23年の成績から考える長所と短所

i) 対右と対左の乖離

エルビンの成績を語るうえで避けて通れないのが被本塁打の多さです、まずはその内訳を見ていきましょう↓

打数で見る23年度エルビン・ロドリゲス被本割合(被本塁打数/打者数)

、、、あれ対左と右でとんでもなく差が開いてないか?今回は対右と左の差を明確にするためにHR/9とは別の数字を使用しています。ちなみにセリーグ被本塁打数ワーストの高橋奎二がこの指標に当てはめると.049(20/445)だったので右打者相手には如何に飛ばされまくっているかお分かりかと思います。NPBのみのデータですが被OPSで見ても対右は.932と毎回原樹理が投げているかのような投球に対し対左は.613と高橋宏斗(左右合わせて.614)と同レベルの投球でその差は歴然としています。ここからその理由を考えていきましょう。

まずはMLB(正確にはマイナーAAA)時代の投球についてです。今回は以下のサイトを使用して23年度の彼の投球の変化度合いを確認していきます。


エルビン・ロドリゲスの投球変化量(投手目線)

そのまま貼り付けてしまいましたが、チェンジアップが縦への沈みが少なく横方向への成分が強い反面スライダーは横方向への曲がりが球によってかなりのバラツキがあり、あまり制御できていない様子でした。これらの横方向へのボールの差が関与していそうです。この2球種を更に掘り下げていきます。例のごとくStatcastを使用して確認します。

特筆すべきはチェンジアップの回転数。MLB平均が大体1800台に対し彼のチェンジアップはMLB登板1試合での値ですが2200超えと異常に回転数が多く更に球速が135~140キロ台ということでシンカー成分の強い特殊球になってました。これがエルビンの強みで対左の秘策なのかと思います。
一方でスライダーは球速と回転数が平均並みで尚且つ再現性に乏しく、MLB時代から課題は歴然だったのかもしれません。
対左の長打が少ないのはツーシーム気味のチェンジアップで空振りを取れるから、対右の長打が多い理由はスライダーの不安定さで逃げ球が作れず踏み込まれやすいからと推測します。
日本でも同様に右に長打を打たれがちで以下の動画でソト選手と大和選手から同じスライダーで空振りを取っていますが、捕手の動きと変化方向を見るにやっぱりスライダーがまだ制御しきれていないように映ります。

一方チェンジアップは凄まじい横方向で佐野選手を打ち取っていますので(動画32秒くらい)こちらの良さは健在でしょうか

ii) 新球への取り組みと誤算

エルビンのMLB時代の投球構成は手元の集計で下記のような構成でした

23年度マイナー投球構成

対右が多かったこともありほとんどがフォーシームとスライダー、チェンジアップとカーブをたまに混ぜる程度の投球でした。ところがNPBではここに新球が加わります。

23年度NPB投球構成

生命線だったスライダーの割合を減らしてカットボールの量を増やした他、スプリットも終盤に投げ始めるようになりました。しかしこの新球のカットボールこそ少々問題になっている球種でもあるのです。

カットボールは下記記事から元々持っている球種だったらしいですが、MLB時代にはほとんど見当たりませんでした。というのもエルビンのフォーシームとカットの球速帯は5キロ以上差があり、尚且つ左打者方向に変化する球は見当たらなかったため本格的にNPBで投げ始めたと思われます。

おそらくNPBの球の曲がりからフィットして自信があったのがこの球種だったのでしょうか、初登板の広島戦では多投して1度も出塁を許しませんでした。ところがフォーシームに相対するとおそらく回転数も乏しく持ち前のアバウトな制球も相まって半速球かつ絶好球になりがちだったか、主に右打者に格好の餌食となり被打率.467で被本塁打数は3本とやりたい放題されました。
この辺りは既にデータはあるようで終盤になるとかなり数は減らしたものの、投げたら確実に打たれるのは変わりなく9/23の阪神戦では6球投げて見逃し以外はボール2球、大飛球の左飛、2塁打、本塁打ととても有効な球とは言えない状況です。ここは改善必須だと思います。

スプリットは終盤に3球しか投げておらずいずれもボール球で、チェンジアップと球速帯が同じなため軌道が垂直方向なだけの引っかけたチェンジアップが誤検知されただけかもしれませんが、先の記事では明言されておらずMLB時代にも投げた形跡が無い球種なので今後どうなるのか楽しみです。

iii) 奪三振率の低下

エルビンの制球力について皆さんどのように考えているでしょうか?という世論調査を実施すれば”あまりいいとは思わない”が7割方占めると思います。実際にどうだったかを見てみましょう。
まずは23年度のマイナーでの数字です。K/9が10.1(53K/47.1IP), B/9が3.6(19BB/47.1IP), K/BBが2.8(53K/19BB)と奪三振率でごまかしていますがやはり四球の数は多いです。更にゾーン内外に投げた投球割合を見るとゾーン内が45.5%(317球/696球)とMLB平均が48.6%なので平均をかなり下回っています。これは高回転のフォーシームで高めのボール球を振らせたりする際もゾーン外の投球と反映されるので一概に悪いこととは言えませんが荒れながらも三振を量産するスタイルがMLBでの持ち味だったように映ります。
一方でNPBに入ってからはK/9が6.3(23K/33IP), B/9が3.5(13BB/33IP), K/BBが1.8(23K/13BB)と与四球そのままに大幅に奪三振能力が減少してしまっています。この理由の一つは先ほどのスライダーの割合を減らしてカットボールを増やしたことも関わっており、実はこのカットボールがゾーン内が66%で当人比でストライクを取りに行きやすい球種ということでただえさえあまり反応しないNPBにおいては制御不安定なスライダーを減らして奪三振を犠牲にしてでもこの球に頼らざるを得なかったかのかと。そしてこの話は次のカウント別の被打率にも繋がっていきます。
そんなストライクを取りに行く球が速球系か半速球しかない投手がカウントを悪くしたらどうなるかと考えたらどうなるかが次のサイトに記載されています。

サンプルは少ないながらボール先行または並行カウント時にスイングを仕掛けられた際の被打率が軒並み3割後半から5割ほどでというこれまた16番のような投球、ライアンやピーターズが3ボール時に3割後半、サイスニも似たように5割ほどあり多少は被打率は高くなりますが並行カウントでは全員ここまでの傑出度ではなく如何に半速球を狙い撃ちされているかがわかります。
アバウトにストライクを取れる球種ができたからこそ逆にそれが三振能力の低下、そもそも三振取る前にバットに当てられて失点に繋がっているのが伺え今後は安易にカウント球を投げる以外の選択肢が必要になりそうです。

③24年度のエルビン、ここに注目

ここまで23年度の傾向をどちらかというと短所寄りでお話をしてきました。MLB時代と異なる球や打者に苦労しながらも一生懸命に適応しようと色々なスタイルを模索している彼について今までの課題や終盤の投球スタイルから24年度の注目ポイントを書いていきます。

i) スプリットを習得するのか

一つ目はNPBで適応するには必要不可欠なスプリットの習得でしょう。過去にも似たような投球スタイルで中々空振りが取れなかったサイスニも、全く違うスタイルの多彩な変化球と制球力でゲームメイクしたピーターズもNPBに来てから極めたのがこの球種。当然ヤクルト首脳陣が覚えさせないわけがないです。サイスニのスプリットは平均球速を抑えた外国人が好むタイプで今や芯外してゴロも空振りも取れる万能な球種となっております。エルビンも現在この役割をスライダーで担っていますがスプリットは空振り用で磨ければスライダーの使い方の幅も広がると思います。

ii) スライダーをどう使うか

現在エルビンは対右にカウントを取る際の選択肢が速球系しかありません。ここにあまり使えていない縦成分のスライダーをもう少し曲がりを抑えてストライクに集められるようになればサイスニの様にカウント取りも苦戦しなくなると思います。終盤にそのような使い方をして見逃しを取る場面も増えていますしサイスニも一つの選択肢として使っているのでまずは精度を高められるようになるか見ていきたいと思います。

iii) スイーパーを復活させるのか

i, iiの改良で似たようなタイプのサイスニを目指すだけではおそらく対右の成績が劇的に改善することは無いでしょう。サイスニは縦成分が多く右打者の外角に逃げる球が無いので対右の成績が良くない(13被本塁打、OPS.805)です。エルビンは既に他の方法で右を抑える術を模索しており、例えばチェンジアップを更に高速化させてツーシーム気味にしていた時もありましたがこれはこれで左打者に捉えられるようになって(木澤みたいな傾向)こちらは今の変化からあまり動かさないほうが良さそうに映りました。
ここで他の方法として考えられるのが4月に2回だけ投げてほぼ見かけなくなったスイーパーをまた取り入れることです。尤も肘への負担が大きいのと縫い目が違うので簡単に勝負球にできないとは思いますが、全く投げてこなかったわけではないですし伊藤コーチという使い手もいますのでキャンプとかで取り組んで是非ものにしてほしいです。

iv) カーブをどう使うか

最後に被打率が低いのに中々投げないカーブについてです。そもそもそこまで投げていないのですが終盤にかけて高めからカーブを投じるスタイルを試すようになっていました。一番球速が出ない球種がこのカーブなので決め球として使うつもりだったのかもしれませんが、エルビンのフォーシームが高めに投じて空振りを奪うスタイルなのでそれを逆手に取ってうまいことゾーンに入れられればまた一つ打ち取る手段になりそうなのでカーブをどうやって使うかは注目です。

最後に

今季の新外国人を2人だけに抑えたのはやっぱり編成がエルビンがある程度計算できると踏んだからこそだと思います。しかしこうしてみるとまだNPBに慣れきっていないのでこのままではキャンプとかOP戦は中々に苦戦するような気もしています。ただサイスニというお手本もいますし、彼自身も昨年色々と模索しているので何の変化もなく臨むことはないでしょう。24年にどのようなスタイルで行くと決めてどんな活躍を見せるのか、エルビンの飛躍が優勝には欠かせないと思うので単身で日本に渡った若きチャレンジャーの成功を祈るのみです‼‼‼

今回はここまで、データが少なくて憶測も入り混じる記事でしたがエルビンの活躍に期待していることが伝わればうれしいです。ではまた。

引用元

*1:東京ヤクルトスワローズ公式、エルビン初勝利時

以降は各章ごとにリンク記載

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