第5章:劣等感からの一歩
劣等感を「向上心」に変えることを学んだ大輝は、次に具体的な行動を起こす決意を固めていた。今までは他人と自分を比較し、勝手に自分を「劣った存在」と感じていたが、アドラーの教えをきっかけに少しずつ考え方が変わり始めた。
「よし、まずは何か一つ、やれることを見つけて挑戦しよう」
そんな決意を抱えたある日の放課後、大輝は再び図書室に向かうことにした。静かな環境で、次に自分が何をすべきかをじっくり考えたかったのだ。周りの生徒たちがそれぞれ友達と話しながら帰っていくのを横目に見ながら、一人で歩くことにもう以前ほどの孤独感は感じなくなっていた。
(自分の得意分野…ってなんだろう。俺に得意なことなんてあるのかな?)
大輝は少し考え込んだ。特に目立った才能も、秀でたスキルもないと感じていた自分に、得意分野なんてあるはずがない。しかし、それでも何かを始めなければ、何も変わらないことは明らかだ。
その夜、自宅で机に向かいながら、何が自分にできるのかを紙に書き出してみた。部活に入ってみるのも一つの手だが、まだ自信がない。とにかく一歩ずつ、できる範囲で挑戦してみるしかない、と自分に言い聞かせた。
次の日、学校で昼休みを過ごしていた大輝は、いつものように教室の片隅で本を読んでいた。その時、クラスメイトの伊藤さんが近づいてきた。
「田中君、図書委員の仕事って面白いの?」
伊藤の唐突な質問に、大輝は少し驚いた。図書委員は、大輝が入っている唯一の活動だったが、特に目立ったものではなかったため、あまりクラスメイトとその話をすることもなかった。
「うーん、面白いかどうかはわからないけど、静かに本を読めるし、時々新しい本が入るから、それを読むのは楽しいかな。」
そう答えると、伊藤さんは少し興味深そうに頷いた。
「ふーん、そうなんだ。実は私も本を読むのが好きなんだけど、図書委員に入ろうか迷ってたんだ。田中君はどうして入ったの?」
「僕は…静かな場所が好きだからかな。それに、本を読むのが一番落ち着くから。」
大輝は少し照れ臭そうに答えたが、実際にはそれが本音だった。伊藤さんは笑みを浮かべて、
「わかる、私も同じ!」
と返した。
「じゃあ、田中君が図書委員をやってるなら、私も入ってみようかな。」
大輝は驚いた。今までクラスメイトとあまり積極的に話をすることはなかったが、こうして自分の好きなことについて話すことで、思わぬ共通点が見つかることもあるのだと感じた。
その後、伊藤さんが図書委員に加わり、昼休みや放課後に一緒に本の整理をする機会が増えた。大輝は、自分が図書委員としてやっていることが、もしかしたら自分の得意分野なんじゃないか、と思える様になり、以前よりも自信を持ってその仕事に取り組むようになった。
そして、図書委員の活動を通じて大輝は、他者との比較ではなく、自分自身の成長を楽しむことができるようになりつつあった。
コラム:劣等感を乗り越えるチェックリスト
劣等感に囚われると、自分自身を否定しがちです。しかし、それを向上心に変えることで、劣等感は成長のための重要な原動力になります。ここでは、劣等感を健全な方向に向けるためのチェックリストを紹介します。
他人と比較しない
自分と他者を比較することは、劣等感を強めるだけです。自分の成長に焦点を当て、他者ではなく自分自身を基準にしましょう。自分の強みを見つける
誰にでも得意なことや好きなことがあります。小さなことでもいいので、自分の強みを認識し、それを活かす方法を探しましょう。小さな目標を立てる
大きな目標に向かうのは重要ですが、まずは達成可能な小さな目標を設定しましょう。小さな成功が積み重なることで自信がつき、劣等感を乗り越えやすくなります。行動に集中する
結果に囚われすぎず、行動自体に価値を見出しましょう。努力を続けることで、結果は後からついてきます。成長を記録する
自分の成長を実感するために、日々の成果や気づきをメモに書き残しましょう。時間が経てば、自分がどれだけ成長したかを振り返ることができます。
劣等感を乗り越えるためには、他人との比較をやめ、自分にしかない強みを見つけ、行動し続けることが大切です。このチェックリストを使って、日常の中で自分を少しずつ成長させていきましょう。
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