見出し画像

第1章:課題の分離

学校の図書室は、大輝にとって唯一の逃げ場所だった。教室にいると、常に誰かの目が気になり、また教室の「居場所のなさ」が彼の心を苦しめていた。いじめを受けた記憶が心の奥に深く根を下ろし、他人と接することへの恐怖心が強くなっていた。

「俺の何がいけなかったんだろう…」

ふとした瞬間、大輝はいつもそう自問していた。友だちができなかったのは、自分が何か間違っていたからだろうか。小学校時代の自分を振り返ると、みんなに合わせていたつもりだったのに、いつの間にかクラスの隅っこに追いやられていた。クラスメートに嫌われるのが怖くて、余計に自分を引っ込めていた。それが、ますます孤立を深める結果になっていた。

その日、大輝はいつものように放課後の図書室に行き、昨日借りた「嫌われる勇気」を読み進めた。すると、「課題の分離」という言葉が最初に目に留まった。

「課題の分離とは、人が持つそれぞれの責任を明確にし、他者の課題に干渉せず、自分の課題にも他者を介入させないことを意味します」

この一文が、大輝の中で静かな衝撃を生んだ。他者が自分をどう思うか、それは自分のコントロール外だと書いてあった。つまり、クラスメートたちが大輝をどう思っていようが、それは彼らの「課題」であり、大輝自身が変えられるものではないという考え方だ。

「そうか…俺はいつも、みんなが俺をどう思ってるかばかり気にしてた。でも、それは俺の問題じゃないのかもしれない」

ふと、今までの自分の行動を振り返る。いじめられた時も、無視された時も、必死にクラスメートたちに合わせようとしていたのは、彼らに「嫌われたくない」と思っていたからだ。自分の課題ではなく、他人の期待に応えることを優先していたのだ。

大輝は、この「課題の分離」という考え方に新たな光を見た気がした。自分はどうしても他人に認められることに固執してきた。しかし、アドラーが示しているのは、その認められるために無理をする必要はない、ということだ。

「自分の課題に集中する…か」

その日の帰り道、大輝はずっとこの新しい考えを噛みしめながら歩いた。頭の中ではまだ整理しきれていない部分も多かったが、少なくとも今までの自分の考え方を変える一つのきっかけを得たように感じた。


コラム:課題の分離とは?

アドラー心理学において「課題の分離」は、非常に重要な概念です。私たちが日々感じる悩みや問題の多くは、他者との関わりの中で生じます。しかし、アドラーはその悩みの解決法として「自分と他者の課題を分ける」ことを提唱しました。具体的には、他者が自分をどう思うかは他者の課題であり、こちらがコントロールできるものではないと理解することです。逆に、自分がどう生きるか、自分の行動や選択は自分の課題です。

他人の期待に応えるために自分を犠牲にすることは、結果的に自分を見失うことに繋がります。この考え方を実践することで、他者に振り回されず、自分自身の人生を主体的に歩むことができるようになるのです。

課題の分離を意識すると、他者の目や評価に過度に囚われることが少なくなり、ストレスやプレッシャーを減らすことができます。自分の人生は、自分の課題をクリアしていくことで、より豊かに感じられるようになるでしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?