第7章:初めての挑戦
大輝は、図書館で伊藤さんに提案した本の紹介コンテストのアイデアを形にするため、動き始めた。しかし、実際にやろうとすると、予想以上に大変なことが次々と出てくる。どうやってクラスのみんなに知らせるか、投票の方法はどうするか、そして何より、みんなが本当に参加してくれるのか――心配事は山積みだった。
「うまくいくかな…」図書室の片隅で、ひとりつぶやく。
不安な気持ちが大輝の中で大きくなりかけた。だが、その瞬間、「課題の分離」というアドラー心理学の概念を思い出す。彼の役割は、コンテストを企画して進めること。それに対して、みんながどう反応するか、参加するかどうかは自分の課題ではない。あくまでそれは他人の選択だということを、大輝は本を読んで学んでいた。
次の日の昼休み、大輝は思い切って行動に出た。クラス全員に「本の紹介コンテストを開催します!」と書かれたチラシを配った。そこには、好きな本を紹介して、全員で投票を行うというシンプルな内容が書かれていた。
「紹介する本を選んで、一緒に盛り上がろう!」という文言で、みんなが気軽に参加できるように工夫したつもりだ。大輝は内心ドキドキしながら、みんなの反応を待っていた。
その後、大輝が図書室で仕事をしていると、伊藤さんがやってきた。
「チラシ、みんな興味持ってるみたいだよ!何人か、すでに本を決めたって言ってたよ。」
伊藤さんは笑顔で報告してくれた。
「本当?」
と大輝は驚いた。
「正直、誰も参加しないかもって不安だったんだ。」
伊藤さんは首を横に振った。
「そんなことないよ、みんな楽しそうだし、とってもいいアイデアだと思うよ。私も参加しようと思ってるし。」
「ありがとう、伊藤さん。」
大輝は少し顔を赤らめたが、心の中でほっとした。そして、自分が一歩踏み出したことが間違いではなかったことを感じた。
本の紹介コンテストの日が近づいてきた。大輝は、イベントがスムーズに進むように、細かい準備を進めていた。投票用紙を作成し、発表する順番を決め、図書室の飾りつけまで行った。もともと苦手だった「みんなの前で何かをする」という行為も、少しずつ慣れてきている気がした。
そして、ついにその日がやってきた。図書室には、クラスメイトや他の学年の生徒も集まり、思いのほか大勢が参加してくれた。大輝は胸をドキドキさせながらも、司会進行を務める自分の姿に驚いていた。以前の自分なら、こんな大きな役割は絶対にできなかっただろう。だが、劣等感に立ち向かい、挑戦する勇気を持ったことで、今の自分がここにいる。
イベントは無事に終わり、クラスメイトたちからも「楽しかった!」という声が次々と聞こえてきた。大輝の胸の中には、これまでに感じたことのない充実感が広がっていた。自分が作り上げたものが、他の人たちにも喜ばれるという体験は、彼の自信を確実に高めてくれた。
大輝は、これからも図書委員として何かに挑戦し続けようと思った。そして、どんなに小さなことでも「自分ができること」を認め、そこから少しずつ成長していく決意を新たにしたのだ。
コラム:劣等コンプレックスの克服法
小さな挑戦から始める
どんなに小さなことでも、挑戦することが大切です。自分の中にある劣等感に立ち向かうには、まず「やってみる」ことが必要です。他人の評価は自分の課題ではない
他人がどう反応するか、どう評価するかは自分のコントロール外です。自分ができることに集中し、それ以外は他人の課題として切り離しましょう。成功体験を積み重ねる
小さな成功でも、それを積み重ねることで自己肯定感が高まります。特に、自分が得意なことを活かせる場面を見つけ、それを実践することが効果的です。継続して行動する
劣等コンプレックスを克服するためには、行動を続けることが重要です。1度の成功に満足せず、次の挑戦に進むことで、より大きな自信を得ることができます。
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