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第10章:実践する勇気

次の日、いつもと変わらない朝の光が差し込む教室。大輝は、自分の机に座りながら深く考えていた。アドラーの本で学んだ「勇気」の本質が頭の中を駆け巡っていたが、それを実際にどう実践するかはまだ不透明だった。

「勇気を持つ」とは、他人の目を気にせず、自分の選んだ道を歩むこと。しかし、学校生活の中でそれをどう具体的に取り入れるかが彼にとっての次の課題だった。


その時、教室のドアが勢いよく開き、クラスメイトの一人が入ってきた。佐々木君だ。彼はクラスの中でも明るく、リーダーシップを発揮するタイプの生徒だが、最近少し元気がなかった。

「田中君、ちょっと相談があるんだけどさ…いいかな?」

佐々木君の声に、大輝は驚きつつも頷いた。

「もちろん、どうしたの?」

「実は、クラスでやる予定のスポーツ大会の準備が全然進んでなくてさ。なんかみんな乗り気じゃないんだよね。俺も頑張ろうとは思ってるんだけど、正直一人じゃ限界があるっていうか…。田中君、手伝ってくれないかな?図書委員のイベントみてて、田中君が協力してくれると心強いと思ったんだ。」

大輝は一瞬迷った。佐々木君のリクエストに応えるのは簡単なことではない。クラスメイトをまとめることや、みんなの前でリーダーシップを発揮することは、彼にとって大きな挑戦だ。

「これって、勇気を持つってことなんだろうか…?」

大輝は心の中で自問自答した。しかし、アドラーが言っていたように、他人の評価や失敗を恐れずに行動することが勇気だとするならば、ここで一歩を踏み出すことが重要だと思えた。

「分かった。僕も手伝うよ。」

その言葉を口にした瞬間、大輝は心の中で少しずつ恐怖が薄れていくのを感じた。自分がどう見られるかや、失敗を恐れるよりも、クラス全員で成功を目指すことの方がはるかに価値があると気づいたのだ。


大輝の心の中で、アドラーが教えてくれた「勇気」の意味が少しずつ具体化していく。クラスメイトたちと一緒にスポーツ大会の準備を進める中で、彼は自分が果たすべき役割の重要性を感じ始めていた。


大会の一週間前、放課後の教室は活気に満ちていた。佐々木君がリーダーとなり、大輝を含む数人が集まって、必要なことを整理していた。

「まず、チームを決めないとね。サッカー、バスケ、リレー…それぞれの競技に参加したい人を集めよう。」

佐々木君はホワイトボードに書き込むと、目を輝かせながら話し始めた。

大輝は、隣に座る伊藤さんに目をやった。彼女も参加することになったようだ。彼女がいると、不思議とリラックスできる。

「じゃあ、私たちも呼びかける?」

伊藤さんが提案すると、大輝は頷いた。

「うん、お願い。」

彼らは、クラスメイトに声をかけ、やる気のあるメンバーを集めるために動き始めた。声をかけるのは大輝にとって簡単なことではなかったが、アドラーの教えを思い出しながら、自分を奮い立たせた。


次の日、大輝は自分が準備したポスターを持って、教室に入った。ポスターには「スポーツ大会参加者募集中!」と大きく書かれていた。

「みんな、参加しようよ!楽しい競技がたくさんあるし、クラス全体で盛り上がりたいと思うんだ!」

大輝は自信を持って声を上げた。

最初は少し驚かれたが、次第にクラスメイトたちも興味を示し始めた。

「田中君が言うなら、参加してみようかな。」

と話しかけてくる生徒もいた。彼の心の中には少しずつ「勇気」が芽生え始めていた。


大会当日、校庭は青空の下、活気に満ちていた。各クラスの生徒たちが集まり、応援の声や笑い声が響く中、大輝はドキドキしていた。

「大輝君、頑張ろう!」

伊藤さんが微笑みながら声をかけてくれた。その笑顔を見て、大輝は自分の中の不安が少し和らいだ。

開会式が始まり、佐々木君が代表として壇上に立った。

「みんな!今日は最高の一日にしよう!クラス全体で協力し合い、楽しみながら勝利を目指そう!」

大輝も拍手をしながら、心の中で高ぶる期待を感じていた。自分たちが頑張った結果が、この日を迎えることにつながっているのだと実感していた。


最初の競技はサッカーだった。大輝はフォワードとして参加することになった。彼は自分の位置に立ちながら、緊張が高まるのを感じていた。サッカーは特に大勢の人の前で行う競技であり、またミスした時の不安が心の中をかすめた。

「大丈夫、失敗してもいい。」彼は自分に言い聞かせた。

試合が始まると、相手チームが攻め込んできた。大輝は焦りを感じながらも、目の前のボールに集中した。自分の判断を信じて走り出し、ボールを奪うために相手に向かって走りこんだ。

「行くぞ!」と、大輝は前に進んだ。そして次の瞬間、ボールを奪った!それは自分でも驚くほどの好プレーだった。

「ナイス!」

チームメイトからの声が響く。その瞬間、大輝は自分の中で何かが変わったことを感じた。周りの目を気にせず、自分の信じたプレーができたことで、自信が湧いてきたのだ。

試合は続き、一進一退の中で終盤を迎えた。しかし最後には、大逆転で見事に勝利を収めた。全員で抱き合い、喜びを分かち合う瞬間は、大輝にとって特別なものとなった。


その後、リレーやバスケなど他の競技も続いた。大輝は他の競技にも積極的に関わり続けた。特に一番盛り上がる最後のリレーでは、自分がバトンを受け取る番になった時、手が震えるほど緊張していた。

「いける!田中君、頑張れ!」

というクラスメイトたちの声が響き、彼はバトンを受け取った。全力で走り抜け、最後にゴールに飛び込んだ時の達成感は、言葉では表現できないほどのものだった。


大会の最後には、表彰式が行われた。自分たちのクラスは、学年優勝を収めた。佐々木君が壇上で賞状を受け取り、みんなで拍手する中、大輝も胸が高鳴っていた。

その瞬間、大輝は自分が持っていた恐怖や不安がどれだけ小さなものだったのかを実感した。彼は、周りの仲間たちと協力することで、自分が勇気を持って挑戦したことの意味を感じていた。


家に帰る道すがら、大輝はこの日の出来事を振り返った。アドラーが教えてくれた「勇気」とは、自分自身を信じることだということを実感した。そして、周りの人たちと支え合いながら楽しむことが、真の勇気の在り方なのだと心から理解できた。

これまでの自分から一歩前に進むことができたのは、アドラーの教えがあったからだ。彼はこの経験を通じて、自分にとっての「勇気」の本質を掴み、さらに成長していくことを決意した。次はどんな挑戦が待っているのだろうかと期待に胸を膨らませながら、彼はその日を終えた。

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