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第9章:アドラー心理学における「勇気」とは

大輝は再び図書室でアドラー心理学の本を開いていた。今度のテーマは「勇気」だ。ページをめくりながら、彼はその言葉に含まれる意味が想像以上に深いことに気づき始めていた。

アドラーは「勇気」という言葉を、単に恐怖を克服して大胆に行動することと同じ意味で使ってはいない。それよりも、「自分の力を信じ、失敗を恐れずに行動すること」が勇気だと彼は言う。人は何かに挑戦する際、必ず失敗の可能性を考える。しかし、失敗を恐れて動けなくなることは、アドラーの考えでは「勇気が足りない状態」とされる。

「人間は、誰でも自分の意志で変わる力を持っている。だが、その力を発揮するためには勇気が必要だ。勇気を持つことで、人は自己成長を遂げ、周りと協力し合うことができるのだ」と書かれていた。

その言葉に、大輝は少しだけ「勇気」をもらったような気がした。しかし、頭の中ではまだ完全に納得がいっていない部分もあった。自分にとって勇気を持つこととは何なのか、具体的にどうすればいいのかが分からなかったのだ。


その日、放課後に伊藤さんが図書室に顔を出した。

「またアドラーの本、読んでるの?」

伊藤さんが笑いながら尋ねた。

「うん、勇気について書いてあってさ…でも、まだよく分からないんだ。アドラーは勇気がすごく大事だって言ってるけど、どうやって勇気を持てばいいのか、なんかピンとこなくてさ。」

「勇気かあ…」

伊藤さんは少し考え込みながら本を棚に戻した。

「私もあんまりそういうの、深く考えたことないなあ。大輝君はどんなときに勇気が必要だと思う?」

「例えば…クラスで発言するときとか、みんなの前で何かをやるときとかって、失敗したらどうしようって思っちゃうんだよね。そんな時、どうやって勇気を出せばいいんだろう。」

伊藤さんは頷きながら言った。

「それって、自分がどう見られるかを気にしすぎてるのかもね。私も、みんなの前で発表するときはすごく緊張するよ。でも、失敗しても大丈夫って自分に言い聞かせてると、少しだけ楽になる気がする。」

「そっか…そういうことかもしれないな。」

アドラー心理学では、勇気とは「他人の評価を気にせずに、自分の信じることを選び、行動すること」とされている。これは「他者との比較」や「他人の期待」に捉われないことを意味する。むしろ、自分自身の価値観や目標に基づいて行動することが、真の意味での勇気だというのだ。

大輝は少しずつ、自分の悩みがどこにあるのかを理解し始めていた。彼が勇気を持てない理由は、周りの目や反応に過剰に影響されていたからだ。勇気を持つためには、他人の評価を気にすることから解放される必要がある。これは簡単なことではないが、それこそがアドラーが説く「自己決定」の原則だ。

「失敗しても、それが自分の価値を決めるわけじゃないんだよね…」大輝は静かに呟いた。

「そうそう!私もよく失敗するけど、それでもいいんだって最近思えるようになってきたんだよ。」

伊藤さんは元気よく笑顔で応じた。


勇気を持つということは、他人にどう見られるかや、他人がどう反応するかを気にしすぎないこと。大輝はその点でまだまだ不安が残っている。だが、アドラーが言うように「人は自分の選択で変わることができる」という考え方に少しずつ共感を抱き始めていた。

その日は、図書室で少し長めに時間を過ごし、勇気について考え続けた。アドラーが言う「他者からの評価に囚われない勇気」、それを自分の中でどのように実践するかを考えながら、彼は心の中に少しずつ光が差し込むような感覚を覚えていた。


コラム:アドラーの考える「勇気」

アドラー心理学での「勇気」は、単に恐怖を克服するためのものではありません。アドラーが説く勇気の本質は、「自己決定」の力です。つまり、他人の評価や期待に捉われることなく、自分の意思で選び、行動することが勇気なのです。

他人との比較や、他人の目を気にして動けなくなるのは、勇気が不足している状態です。しかし、他人の評価を気にせず、たとえ失敗しても自分を否定しない態度を持つことが、本当の意味での「勇気」です。勇気とは、成功や失敗に関わらず、自分の選択に自信を持つこと。これを理解することが、アドラー心理学の根幹にある「自己決定」と結びついています。

失敗を恐れず、他人と比較せず、自分を信じて一歩を踏み出すこと。それが、アドラー心理学における「勇気」の意味です。

勇気を持つための3つのステップ

  1. 自己決定を意識する
    他人の期待や評価に囚われるのではなく、自分自身の価値観に基づいて行動することが勇気です。

  2. 失敗を受け入れる
    失敗は成長の一部であり、それが自己否定につながるわけではありません。失敗を恐れずに挑戦することが勇気を持つための鍵です。

  3. 比較をやめる
    他人との比較は、自分を劣等感に追いやることがあります。比較ではなく、自己の目標に焦点を当てて行動することで、真の勇気を育てることができます。

勇気とは、他人からの評価に捉われず、自己の価値を認め、成長し続ける力です。それを身につけることで、人は本当の自由を手に入れることができるのです。

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