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第13章:他者貢献の真の意味

昼休みの図書室。静かで心地よい空気が流れ、いつものように本棚を整理する大輝の姿があった。大輝は最近、自分が図書委員を本当に楽しんでいることを実感している。整理整頓が得意で、誰かの役に立てる感覚が彼に少し自信を与えていた。しかし、それ以上に、この場所は彼にとって安心できる場所でもあった。

そんな時、アドラー心理学の「他者貢献」という言葉をふと思い出した。

「他者貢献か…」

大輝は小声でつぶやいた。

「どうしたの?」

伊藤さんが気になったように尋ねる。

「アドラーの言う『他者貢献』って、結局何なんだろうって思ってて…」

大輝は本を見せながら答えた。

伊藤さんは一瞬考え込んでから、

「私もそれ、気になったことあるかも。でも、それって自分のことを二の次にするってことにならない?今までのアドラーの考え方とちょっと違う気もするんだよね。」

大輝もその点は気になっていた。

「たしかに、これって一歩間違えば自己犠牲だよね。他社貢献とは何が違うのかな?」

「あ、ここに説明があった。自己犠牲っていうのは、自分を無理してまで他人のために何かをすることで、他者貢献は自分自身も大切にしながら、相手に何かを与えること…って書いてあるね。」

伊藤さんはアドラー心理学の本を指さして言った。

大輝は確かにそうだな、と思った。今までの自分の行動を思い返してみると、無意識に自己犠牲的な行動をとってしまうことがあった。たとえば、誰かの期待に応えようとして無理をすることが多かった。

「そうか…だから、アドラーは他者貢献っていうのが人間関係の基本だって言ってるんだな。ただ誰かに尽くすんじゃなくて、お互いを尊重しながら助け合うことなんだ。」

大輝は少しずつ理解が深まっていくのを感じた。

「でも、難しいよね。どうしても相手のために何かをしようとすると、自分を後回しにしがちになるし…」

大輝は自分の悩みを素直に口にした。

「それって、『共同体感覚』と似てるかもね。」

伊藤さんが笑顔で答えた。

「みんなが一緒に成長できるような関係が大事なんだよ、きっと。」

大輝はその言葉に勇気づけられた。そして、これからは他者を助ける時も、自分を大切にしながら行動しようと決心した。


コラム:他者貢献と自己犠牲の違い

アドラー心理学における「他者貢献」は、単に他人のために行動するという意味ではありません。自分の能力や特技を生かし、相手と協力することで生まれる相乗効果によって成果を生むとともに自分の居場所がある、という共同体感覚を生むものと定義されています。

一方、「自己犠牲」とは、自分を犠牲にして相手に尽くす行為であり、しばしば内心では不満や疲れを抱えることが多いです。自己犠牲は、見返りを期待したり、周囲からの承認を求める場合が多く、結局のところ、自分自身を苦しめる結果になります。

他者貢献のループは「私には能力がある→その能力を生かす→他者のためになる→その結果、自分の能力をさらに自覚する」という形で、自己満足感を育てるものです。このようにして他者と協力し、相乗効果を生むことが、真の意味での貢献と言えるでしょう。

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