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古典ブルーブラックと万年筆と私 2 野望篇


古典インクを作ること自体は簡単だった


プロジェクトXばりの失敗と成功のドラマがあれば盛り上がるのでしょうが、「インキと科學」の処方のまま調製してみるのは簡単でした。本に書かれているのは処方だけで、書かれていないちょっとしたコツのようなものはありますが、化学系の実験をやったことがある人なら経験的に勘が働く程度のものです。
2009年2月24日のことでした。古典的ブルーブラックを作ってみた。 - 趣味と物欲
また、「インキと科學」の紹介記事で分かるのは、古典インクの主要成分である硫酸鉄 (塩化鉄)、タンニン酸、没食子酸、硫酸 (塩酸)の量や比率のみで、色素として何が使われているかは明示されていませんでした。


たまたま食用青色1号があった


青色の適当な色素を探すと、食用青色1号が目につきました。原薬が毒薬の薬を賦形して希釈する時、青に着色するのに青色1号を使うので、持っていたんだと思います。
古典インクの原液と混ぜてみると、沈殿ができるとか分離するとか、特に異常無く着色できました。ただ食用青色1号の青は青というより水色なので、市販のブルーブラックと同様の色調を目指していた当時は、より濃いブルーの色素を探索する方に向かいました。
それから10年を経て、食用青色1号を使った古典インクは「喜望峰」として日の目を見ることになります。


自分なりのアレンジとして溶剤を検討する


「インキと科學」やインキと科學で参照されている「最新化学工業体系」等の文献に掲載の処方では、溶剤は水のみを使用し、沈殿抑制のための粘度調整にアラビアゴムを添加しています。
当時はまだアスコルビン酸洗浄法は無く、古典インクを固めてしまったら、物理的にかき取るしかないと考えられていましたから、糊になり固着を強固にするアラビアゴムは加えず、乾燥を抑制するための保湿剤として、グリセリンやPG、DEGの添加を検討しました。
苦労したと言えば、保湿剤として何をどれくらい加えるのかは試行錯誤した点でしょうか。保湿剤を加えると、どうしても滲みやすくなったり、裏抜けしやすくなりますから、どれくらいなら許容範囲か、自分なりに納得のいく添加量を探しました。
最新の滲み・裏抜け検証の結果から、保湿剤を加えている古典インクは、私が調製したインクかKWZインクだと予想されます。
各種古典ブルーブラックインクをモレスキンで滲みと裏抜けテスト - 趣味と物欲


青以外の色素にも手を広げて色素を探す


古典インクに使用できる色素を探して、食用色素や法定色素で手に入るものを片っ端から購入して試しました。食用色素の一部は、スーパー等にも売っていますが、デキストリンなど食べて害にならない成分を加えて希釈されていますから、試薬として売られている純度の高いものを探して購入します。
古典インクを作る材料の中で最も高いのは色素です。少量小分けされたものは割高で、少しでも結構なお値段がします。財布にかなりの痛手だったのですが、買えるものを購入し、古典インクの原液と混ぜて変化を観察しました。
その結果、古典インクに使用できる色素10種が見つかり、赤青黄色の三原色が揃ったので、色々な色の古典インクを調製できる準備が整いました。
古典系基本10色完成 (万年筆用インク古典ブルーブラック仕様) - 趣味と物欲


始まりの勇者たち


古典インクの調製を始めてから1ヶ月と少し、各種万年筆に入れて使ってみて、自分でも驚く程トラブルが起こらなかったので、βテスターを募集することにしました。
2009年4月7日のことです。自作インクのテストにご協力いただける方を募集します。 - 趣味と物欲
Museさん、stoneさん、マジェスティさん、シューちゃん、Shenさん、Hiro-Aさん、チェリーさん、渓雪さん、蓮覇fe500rsさん、solitonさん *1、多くの方からご感想をいただき、ご意見を元に改良を進めました。
特にstoneさんからいただいた蛙やラスカル (raccoon) のイラスト入りのご感想は、古典インクの変色を利用して絵を描くという発想から強く印象に残っています。

続きます。
pgary.hatenablog.com

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*1:ご協力いただいた全ての方をご紹介しきれていないので、ここにペンネームを載せてよいという方はご連絡ください


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