かんな奥様ストーリー⑭
翌日、俺は上司と共に客先の挨拶を終え、大宮駅にいた。
「笠原、お前おすすめの土産知ってるか?」
土産が売っているコンビニの横を通ると、上司が俺に訊いてきた。
予定よりも早く駅に着いたから、土産を買う余裕はある。
「十万石まんじゅう、ですかね」
「これか。会社の奴と家の分……」
俺は妻が勧めてきたものを答えた。昨日、この店で土産を買ったから、置いてある場所も分かっている。
上司は俺の薦めたものを二つ買った。
会計を済ませ、土産袋を持って戻ってきた。
「お前が選ぶ土産はハズレがないよな」
「そうなんですか?」
「どこへ行ったか分かるし、値段も手ごろで、人に配りやすい」
「はあ」
土産はいつも妻が選んでいるから、上司に褒められても実感が湧かない。
「だから、出張に笠原を連れて行くんだよな」
「……そんな理由で、俺、日本中駆けまわってるですか?」
「出張帰りの土産は案外重要なんだぞ。社内の空気がガラッと変わる」
「んな大げさな……」
「ってなわけで、次の出張も運転手頼むぞ」
上司は俺の肩にぽんと手を置いた。
土産の話が冗談なのか本当なのか分からないが、次回の出張も俺が運転手を務めるのは決まっているみたいだ。
埼玉では良い商談がありそうだから、近々、隣で陽気に笑っている上司と共に来ることになるだろう。
その時はまた、かんなと甘い時間を過ごしたいなと、俺は思った。