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【AI小説】サイコホラーSF「アストラル・リンク - ガイアの浸蝕」#16
リア・ハーパーは脱出ポッドの狭い操縦席で、慣れない操縦桿を握りながら息を詰めていた。背後に座るサラも、画面に溢れるノイズの波を必死に読み取ろうとしている。ガイア内部の混乱はピークに達し、抑制装置の局所運用では広い範囲を救えない。もはやコロニー外へ出て、他の拠点に助けを求めるしかない——それが二人の共通認識だった。
とはいえ、ポッドのシステムは瀕死状態で、いつ停止してもおかしくない。リアがコントロールパネルを操作していると、警告音が断続的に鳴り響き、モニターには「SYSTEM UNSTABLE」という文字が踊る。
「まだ……まだ動力はあるわ。少なくとも軌道上までは行けるはず」リアは自分に言い聞かせるように小声で呟く。サラは心配げに、「大丈夫? こっちは通信モジュールをリセットしてるけど、ほとんど応答がないみたい……」と声を震わせる。
ガイア外周にはいくつかのコロニーがあり、中でもアレオーンの名前はリアも知っている。だが、干渉発生以来、まったく連絡が取れない状態が続いていた。もし外へ出て干渉が弱まれば、どこかと繋がる可能性がわずかでも残されるかもしれない。
「行くしかないわ。みんなが時間を稼いでくれてる間に、私たちが何とかする……」リアは操縦桿を押し込み、船体が軋むような揺れを起こしながらドッキングベイを離脱する。隔壁をこすれる嫌な音がしたが、完全に止まる気配はない。
──暗い宇宙が視界に広がる。星々の光はちらちらと見えるが、ノイズだらけのカメラ越しでははっきりしない。
「成功……かも? とりあえずガイアを離れたみたい」サラが端末を見やり、ほっとしたように息をつく。リアも肩の力を抜き、「あとは軌道を安定させて通信の隙を探すしかないわ。干渉が全部ここまで追ってこないといいけど……」と声を落とす。
船体が振動を続けながらも、やがて大きな揺れが収まり始める。その瞬間を狙って、サラが再度コミュニケーションモジュールをスキャンにかける。
「はあ……どこも応答ないか……」苦い表情でそう言おうとした矢先、端末に薄いピー音が混ざった奇妙なノイズが走った。「ん……? ちょっとこの波形、さっきとは違うかも」彼女が怪訝そうに画面を見つめる。
リアもマイクを手にして、「もし誰かが応答してくれるなら……!」と祈るように周波数調整のスライダを触る。ノイズに埋もれたままかと思われたが、やがて端末が引っかかったように雑音を一瞬切り裂き、掠れた音声が浮かんだ。
「……こちら……アレオーン……干渉下で……ラティス……」断片的すぎるが、明らかに人の声だ。しかも“アレオーン”の単語が混じっている。リアははっと目を見開く。「アレオーン……! やっぱりあそこも同じ干渉に襲われてたんだ。何か言ってる……?」
不意に強いノイズが重なり、声が聞こえなくなりかける。リアは慌てて送信ボタンを押し、「聞こえますか! こちらガイア、リア・ハーパー。干渉で通信が遮断されていたけど、今ポッドで外に出ました! あなた方は……」と半ば叫ぶように呼びかける。
しばらく沈黙が続き、再び壊れたような雑音が混ざる。その中でかろうじて別の女性の声が割って入った。「ミラ・カザレフ……アレオーン……こちらもラティス干渉……」という断片がリアの耳に飛び込む。
「ミラ・カザレフ……! アレオーンって名前も……っ!」リアは興奮と不安で胸を詰まらせながら、「あなたたちもラティスに襲われてるんですか? ガイアも同じなんです……何とか対抗しようとしてるけど……!」と続ける。サラも戸惑いながら端末を操作し、「雑音がすごい……メッセージがかき消される……」と嘆く。
やがてノイズが再度増幅し、声は掻き消されるかに見えた。しかし、一瞬だけはっきりした音が通り抜ける。「……協力……封印の手立て……まだ……」。その言葉に、リアは大きく息を飲む。アレオーンで何とか封印を試みているのだろうか。
「待って、どんな方法? ガイアも抑制装置を作ってるだけで限界なのよ……もっと詳しく……!」リアが再度叫ぶが、次の瞬間完全に回線が切られたように雑音が雑じり、一瞬モニターがホワイトアウト。サラが必死に再接続を試みても、反応が得られない。
「駄目だ……今は繋がらないみたい。けど、アレオーンも同じ干渉を……ラティスって単語がやっぱり本物なんだ。私たちだけじゃなかったのね」とサラが震える声で言う。リアも頷き、「ええ……通信が短すぎるけど、確かに“ミラ・カザレフ”って名前が聞こえた。いつかまた繋がれば、お互い協力できるかもしれない。私たちは孤立なんかじゃないわ」と微笑む。
ポッドの姿勢がぐらりと傾き、再び警告ランプが点滅を始める。干渉の残響なのか、単純な燃料不足か——原因はわからないが、今は落ち着いて姿勢制御を続けるしかない。
「ちょっと待って……姿勢を維持するから。時間が経てばまた電波が安定するかもしれない。そしたらもう一度、アレオーンへ呼びかけるわ」リアは操縦桿をきつく握りしめる。ここで諦めるには早すぎる。
サラは深く息を吐き、「たった数十秒の会話だったけど……大きいわね。私たちだけがこのラティスと呼ばれる干渉に翻弄されてるんじゃないって分かった。まだ道があるかもしれない」と頬をこわばらせながらも目を輝かせる。
リアも大きく頷き、「もしアレオーンが封印の手立てを見つけかけているなら、ガイアの抑制装置と合わせて何とかなるかもしれない。干渉に勝つには、力を合わせるしかないもの」と、苦い笑みを浮かべる。
こうしてポッドは混沌の軌道を進みながら、再度通信のタイミングをうかがう。ガイアに残る仲間たちが抑制装置で辛うじて理性を保つ時間を稼げれば、いずれアレオーンとの連携でラティスを封じ込める日が来るかもしれない。
「絶対に諦めないわ。たった一瞬でも、他コロニーからの声を聞けたってことが何よりの証拠。私たちの闘いはきっと続く。ねえ、サラ……」リアがそう呼びかけると、サラは笑みを返す。「ええ、宇宙は広い。通信は切れても、繋がる可能性はゼロじゃないわ」
警告だらけのディスプレイをにらみつつ、リアはそっと船内を見渡す。疲れ切った自分の呼吸音と、かすかに揺れる機体のきしみ。その中で、新たなチャンスが生まれるかもしれないという微かな希望が確かに息づいていた。
“この先、アレオーンのミラと本格的に協力できるなら、ガイアが完全に沈む前に手を打てるかもしれない。” そう頭に浮かべながら、リアは闇を突き進むポッドの出力をゆっくり上げる。
宇宙の深い夜にはまだ干渉の影が漂っているが、少なくとも二人は一歩を踏み出せたのだ。他コロニーとの連携が生まれれば、ラティスを封じる方法を模索できるだろう。ガイアで抑制装置を必死に守る仲間たちと、今ここで微かに声が届いたアレオーン。両者の出会いが、次の未来を拓く鍵になるとリアは確信している。
ノイズ交じりの星海を見つめながら、リアは思わず笑みをこぼした。「戦いはまだ続くけど、少なくとも孤立じゃない。私たちだけじゃないんだ……」
こうして、ポッドはアレオーンへ向けて広大な宇宙へ進んでいく。通信が再び確立されるか、干渉が待ち受けているのかは分からない。しかし、短い交信の中で確かに「アレオーン」を感じ取ったことが、ガイアの絶望をわずかに切り崩している。
闇の中で交差した声が、やがて大きな繋がりへと成長していくかもしれない。それは、ガイアとアレオーンが同じ“ラティス”の名の下に戦う日が訪れるという予感にも思える。リアとサラは操縦席で強い意志を宿しながら、光を求めて航路を伸ばすのだった。
これにて、ガイアの浸蝕は終わりです。
ガイアを脱出した、リアとサラはどうなるのでしょうか。
続きをお楽しみに。