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【AI小説】サイコホラーSF「アストラル・リンク - アレオーンの謎」#8
【第3章「揺らめく断片」】
アレオーンコロニーの回廊を歩むミラ・カザレフの足音は、先ほどよりもわずかに軽快だった。微細な書き換えを示す証拠を仲間たちと共有できたことが、多少なりとも自信へと繋がったからだ。もっとも、依然として問題は山積みであり、カーター博士は行方知れず、クラウディアAIは曖昧な応答を続け、コロニー内部には不穏な気配が漂っている。
彼女は探査官として責任を感じつつも、一人の人間として不安を隠せない。だが、今は前進するしかない。先ほど決めた通り、博士の研究室周辺をもう一度詳しく調べることにした。
「ごめんね、博士」と心の中で小さく詫びるように、ミラは意を決する。この状況下でプライバシーを尊重する余裕はない。博士が戻らず、コロニーが揺らいでいる以上、必要な情報を得るためには躊躇していられないのだ。
博士の研究室近くの廊下は、いつもより静かだ。先ほどの騒然とした空気が嘘のように静まり返っている。まるで内部に潜む何者かが、意図的に音を消し、ミラの進行を見守っているような錯覚を覚える。
「落ち着いて、怖がらないで…」ミラはまぶたを軽く閉じ、ゆっくりと息を整える。
研究室の前に辿り着くと、以前は認証が拒まれた扉が目に入った。
「確か、前回は裏ルートでラボに入ったのよね」彼女はアークワン(Arc-One)を見つめる。今回は正面からアクセス要求を行う。
アークワンをかざすと、わずかに遅延を伴いながら、認証を試みるプロセスが走る。画面には意味不明な記号が一瞬ちらつくが、すぐに平常値へ戻る。しかし、ドアは依然として閉ざされたままだ。
「やっぱり駄目ね…」ミラは唇を尖らせて小さく呟く。
「仕方ない、また裏から回るしかないわ」
少し困ったような溜息をつき、回避策を探る。
メンテナンスシャフト経由で研究室裏手に回るため、少し遠回りをする必要がある。狭く息苦しいシャフトは、決して快適な道のりではない。だが、既に一度経験しているし、今は一刻も早く博士の痕跡を見つけたい。
「行きましょう、しょうがないわね」と小声で自分に語りかけ、再び歩みを進める。
シャフトへのアクセスパネル前で、彼女は立ち止まった。ここは緊急時用であり、通常は鍵がかかっていないはず。それでも、何らかの書き換えが起きていないとは限らない。恐る恐るパネルを開き、手動ロックを確認する。
幸い、ここはまだおかしな書き換えはないらしく、予備ハンドルを回すと蓋が緩んだ。内部には微かなオゾンの匂いが漂い、金属管が走る狭い空間が闇に沈んでいる。
「ああ、またこの狭い道…」ミラは苦笑混じりに肩をすくめる。
ライトスティックを片手に慎重に進むうち、先ほどより空気が少し乾燥しているように感じる。パイプとケーブルが交錯する細い道は、まるでコロニーの血管のようで、異常現象という毒素がどこかで滲んでいるようなイメージが浮かぶ。
何分か経ったのだろう。やがて、研究室裏手への点検ハッチが見えてきた。前回のように認証を試し、今回は素直に開くか――ミラは緊張しながらアークワンを操作する。
画面には正常なレスポンスが返り、ハッチが軋んだ音とともに開く。ほっと胸を撫で下ろすと同時に、微かな不安が頭をもたげる。なぜここは素直なのか?何者かが彼女を誘っているのではないか、そんな疑惑さえ生まれる。
「勘ぐりすぎても前進できないわ」ミラは自分にそう言い聞かせる。
少しばかりの勇気を振り絞り、ハッチをくぐって研究室の裏スペースへ入る。ここは薄暗く、埃が少し舞っている。以前見た端末やチップはそのままなのか、それとも記録が書き換わっているかもしれない。
足元のパイプをまたぎ、慎重に進むうち、何かが閃くような予感がした。もしかしたら、新たなメモやファイルが残されているかもしれない。彼女が探すのは、カーター博士の行動の手掛かり。どんな小さな断片でも今は貴重だ。
ミラは視線を巡らせ、再びあの古い分析装置に近づく。前回は不完全だった検索を試し直し、暗号データがまだ残っているか確認するつもりだ。
「今度こそ、もう少し何か分かるといいわね」と、ほんの小さな期待を込めた囁きが、彼女の唇から自然と零れ落ちた。