【AI小説】サイコホラーSF「アストラル・リンク - アレオーンの謎」#9
研究室裏スペースに身を潜めたミラ・カザレフは、ほの暗い環境にゆっくり目を慣らしていた。配管が入り組み、足元には古い資材が積み上げられている。前回ここに来たときは、あまり長居できなかった。今回こそ、もう少し丁寧に確認して、カーター博士が残したかもしれない手掛かりを探したい。
アークワン(Arc-One)のディスプレイを照明代わりに使いながら、彼女は慎重に歩を進める。ささやかな物音が響くたびに一瞬だけ息を詰めるが、すぐに平静を取り戻す。誰かが後をつけているのか、それとも空調や設備の微調整が生み出す偶然の音なのか、判別はつかない。しかし、怯えたところで進展は得られない。彼女は探査官として、前へ進むしかない。
端末が並ぶ一角に再び近づくと、前回見た古い分析装置がそのままの位置にあった。前回は暗号化データが残されているらしいメモリチップを発見したが、十分な解析は行えなかった。今度はアークワンも多少安定しているはずだ。
「もう一度試してみましょう」と、心の中で思い、ミラは分析装置のパネルに手を伸ばした。
装置は旧式で、動作音もかすかに軋むような色合いを帯びているが、電源は入っている。アークワンを近づけると、変換アダプタを介してケーブル接続が可能なようだ。ミラは鞄から小さな変換ユニットを取り出し、丁寧に接続する。
「うまく繋がって…」と小さく願い、数秒待つと、アークワンが淡い振動で応える。どうやら接続は成功したらしい。
データ読み取りを試みると、装置内部には暗号化された断片的なファイルが散在していることが判明。フォルダ名は不規則で、日付や時刻の整合性もとれていない。「ニューロ・ラティス」という単語も数回出現しているが、それ以上の詳細は暗号を解かないと分からない。
「解読には時間がかかりそうね…」ミラは歯噛みしそうになる気持ちを抑え、少し肩の力を抜いた。焦れば焦るほど、状況は混乱するだけだ。
ここで見つかった情報は、博士が何らかの極秘研究を進めていた証拠になるかもしれない。もしニューロ・ラティスが記憶干渉や現実改変を伴うエクソペアだとしたら、博士がその解析や対策を練っていた可能性もある。いずれにせよ、これを仲間たちと共有すれば、彼らの不安を少しは軽減できるだろう。
ミラは静かに息を吐き、頭をクリアに保つよう努める。僅かな前進でも、前へ進めば必ず出口に近づくはずだ。
装置内部のログをざっとチェックし、日付の異常やファイル形式の奇妙さをアークワンに記録させる。大した進展ではないかもしれないが、今はこれで十分だ。ここに長居すると、また得体の知れない気配に神経をすり減らすことになる。
「これ以上は無理ね、戻りましょう」接続を外し、変換ユニットを仕舞い込む。
振り返ってハッチを見つめる。元のコロニー内通路へ戻るまであとわずかだが、その間また何が起きるか分からない。それでも、彼女は嘆かない。既に何度か同じような状況を乗り切っている。
人々が不安がる中、自分は少しでも確固たる根拠を持って戻る必要がある。ここで得た暗号化ファイルは確かな存在であり、虚構で書き換えられたものばかりではないと示せるかもしれない。
ミラはハッチに向かって歩き出す。重なる謎を前に、できることを一つずつ丁寧にこなすしかない。
遠くで微かに響く空調の唸りが、かすかな不安を耳元で囁くように聞こえるが、彼女は気に留めず、背筋を伸ばしたまま歩調を整える。
「戻ったら、スンやレイニーにこのファイルの存在を伝えなくちゃ。解析方法を一緒に考えれば、少しは前進できるはず」
そう心に決めて、ミラは再びコロニーの狭い血管を抜け出し、メイン通路へと足を踏み出す。ごくわずかでも光明が見え始めたと信じたい。コロニーが脆いガラス細工のように軋む中で、探査官である彼女は、一人の人間としての柔らかな思考を保ち続けながら、この未知の闇に対峙し続けるのだった。