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“「書く力」の教室”と予告編ディレクター

私は映画の予告編を作る、という仕事をしているのですが、田中 泰延 さん直塚 大成さん著「書く力」の教室という本を読んで、ライターと予告編ディレクターには共通点が多いことを知り、是非記念に書き留めておこうと思った次第です。

先ず、映画の予告編を作るとき、一番最初にするのは当たり前ですが本編を観ることです。その後、クライアントさんと打ち合わせをしながら、どういった切り口で宣伝したいのかを確認します。

次に、この仕事で超大切な『準備』の始まりです。まず、使いたい芝居、こころに残るセリフ、役者のいい表情やキメ顔、物語の鍵を握る写真や手紙などの重要な小物、風景、そして『この映画といえばこのシーン!』と言えるくらい印象的なカット(タイタニックで言えば船首で2人で羽ばたくポーズ)などを細かくシークエンス毎に分ける、多分ここに一番時間をかけます。これが『書く力の教室』の第二章「準備」に似ているのです。締め切りのことを考えると一刻も早く作り始めたい…と焦ってしまうんですがそこをぐっと堪えて。ここをしっかりやっとかないと後で必ず後悔します。出来れば「この映画のことなら任せて!どこに何のカットがあるか即答できまっせ!」くらいの状態になったら完璧です。

その後、コンセプトに合った音楽を探したり、コピーやキャスト紹介テロップ等に似合う文字の書体を探したり…とくに音楽は、主題歌や劇版があればいいのですが、ない場合は途方も無いライブラリーの中から選ぶので、とても地道な作業です。これは5章の「調べる」にも似ていて、ライターさんが自分が求めていた資料を見つけた時の「これだ!!!」と予告編にピッタリな曲を見つけたときの「これだ!!!」がワタシの中で一致しました。

第4章の「書く」もやります。これは自分で抜粋したセリフを全部書き写すという作業です。これをしておくとあとから構成を考える時にとっても役立つからです。たまに代理店の人がセリフ起こしをしてくれたりするんですが、先ずは自分でやった方が確実に頭に入ります。「文字起こしはもう一度取材相手と出会い直す、くらいのつもりでバイヤスなしにやった方がいいんです」という田中さんのお言葉に深く頷きました。私も、もう一度映画の登場人物に出会い直してるような気持ちで書き写しています。

さて、ここまできてやっと予告編の構成を考えるわけですが、第4章にある「まずは見出しをつける」は予告編にも適用する時があります。例えば「ルール①その扉を開いてはいけない、ルール②誰にも喋っていけない〜」のような見出しはホラー映画でよく使われるし、たくさんの登場人物を順にテキストと一緒に紹介していくのは三谷幸喜監督作品なんかで活用できるパターンです。まだなんの情報も知らない観客にはこうやって見出しで状況や登場人物を説明していく方がすっと頭に入っていくのです。

「文字起こしを読み返さなくても思い出せる〝心の結び目〟(感動ポイント)を中心にして構成しよう」は予告編でもとっても大切です。宣伝なので感動ポイントを全部出してしまうと本編見なくてもいいよね、ってことになってしまうのですが、そのポイントは例えばある役者の表情1カットでもいいし、どんどん近づいてくる足音でも、離した手と手のアップでもいい。その先に何が待っているか知りたくなるポイントを最高潮に持ってくれば予告編としての役目はほぼバッチリだと思います。この『結び目』はどんな作品にも必ずあります。

他にも、自分がいいと思うものでも人から見たらそうでもない〜「ダメ出しは伸びしろの証」のくだりはこの仕事を始めて10年以上経って気づきました。昔は修正が入ると『なんでこのカッコいい出だし伝わんないのー』とか思っていた恥ずかしい時期もありましたが、今は指摘された部分を修正していくうちに、ファーストラフよりいいものができたりして、宣伝担当の方を、共に予告編を作っている戦友のように感じてしまうことも多々あります。

はっ!気がついたら長くなってしまいました。
この本はライターになりたい人だけでなく、もちろん私のような職種でなくても、いろんな仕事や趣味に役立つのではないでしょうか。企画書の書き方や、人前でプレゼンする時のヒントにもなるし、何かモノづくりをしている人にも…。

「伝える」って難しいですが、伝わると最高に気持ちいいし、楽しいです。
田中さん、直塚さん、良書を世に出してくれてありがとうございました!


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