ノルマンディーの小さな農場で出会った至福の味
歴史の重みを今も静かに伝えるサント=メール=エグリーズの近く、コタンタン湿地の懐に抱かれるように佇む小さな農場がある。
「レ・ブイユ・ド・コーキニー」という響きの優しい名前は、1812年にアンフレヴィルに統合される前の村の名前、コーキニーから受け継がれている。
農場を営むクリステルさんとヴァレリーさんは、何十年もの間、この地に根付いてきた家族の想いを大切に守りながら、環境との調和を重んじた乳製品作りに心を注いでいる。
牛たちは年の大半を青々とした牧草地で過ごし、冬も餌の7割は牧草という贅沢なこだわり。
そんな二人の丁寧な仕事ぶりは、リヨンの国際コンペティションでも高く評価され、デザートクリームやチーズで輝かしい成果を収めている。
農場の宝物は、毎週木曜日に搾りたての生乳から丹精込めて作られる「コーキニーのトムチーズ」と、エゾマツの帯が優美に包む「サン・コーキニー」。
とりわけサン・コーキニーは、ルブロションとサン・ネクテールの良さを見事に調和させた逸品で、朝一番の生乳だけを使う贅沢さが、そのクリーミーな味わいをより一層引き立てている。
添加物とは無縁の農家製ヨーグルトは、素朴なプレーンから手作りのオーガニックフルーツソースを添えた物まで、まるで色とりどりの宝石箱のよう。
新鮮な生乳から生まれるフロマージュ・フレには、搾りたてのミルクがそっと囁きかけてくるような優しさがある。
農場では近隣の生産者から届く放し飼い卵も並び、この地の恵みの豊かさを静かに物語っている。
伝統の技と環境への深い愛情、そして何より生産者たちの溢れる想いが、ノルマンディーの大地が育んだ至福の味わいを紡ぎ出している。
営業時間は、水曜の午後3時から7時と、土曜の朝10時から12時半という、いかにもフランスらしいゆったりとした時間帯
その限られた出会いの時間が、この農場の味わいをより一層魅力的なものにしているのかもしれない。
まるで、大切な人との待ち合わせを楽しむように。
(記事の情報は、レ・ブイユ・ド・コーキニーのオフィシャルサイトを参考にしました。)