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ノルマンディーの寒空の下で:フランス人が愛するテラス文化

ノルマンディーの冬は、どこかしら人の気配が薄い。

普段は静かなこの地方都市も、クリスマス休暇が近づくと少しだけざわめきを取り戻す。

パリや他の都市部で忙しく暮らしていた若者たちが地元に帰り、家族や古い友人たちと過ごすためだろうか。

いつもはひっそりとしたカフェやバーが、寒空の下で不思議な熱気を帯び始めるのだ。

とりわけ目を引くのは、テラス席の賑わいだ。

寒風が頬を撫でても、フランス人はたいていテラス席を選ぶ。

私にはどうにも不思議でならない習慣だ。

日本なら、こんな気温では誰もが室内の暖かな席を探すというのに…。

薄暗くなった街角、街灯に照らされたテラス席では、厚手のコートに身を包んだ若者たちが楽しそうに笑い合っている。

温かな息が白く漂い、テーブルの上にはヴァン・ショー(ホットワイン)の小さな湯気がゆらゆらと立ち上る。

ヴァン・ショーは、こちらでは冬の風物詩だ。

赤ワインにシナモンやオレンジピール、クローブといったスパイスや柑橘類を加えて温めた飲み物で、冷えた体をじんわりと芯から温めてくれる。

手のひらでマグカップを包み込むと、立ち上る芳醇な香りが鼻先をくすぐり、どこか心がほっとするのだ。

ふと視線を上げると、ひとりの青年がグラスに注がれたビールを持ち、仲間たちと大笑いしている。

寒空の下、凍てつくような空気の中で冷たいビールを飲むその姿に、「どうして温かい飲み物にしないの?」と思わず心の中で突っ込んでしまった。

でも、こういうのもフランスらしい。

寒い冬にテラス席で過ごすフランス人たちは、寒さそのものを楽しむ術を知っているのだろうか。

パリで見た光景が頭をよぎる。冬の曇り空の下、カフェのテラス席はびっしりと人で埋まっていた。

ストーブやブランケットを用意したカフェもあるが、それがなくても彼らは外に座る。

街行く人を眺めたり、本を読んだり、スマホを見たり、友人とおしゃべりしたり…。

寒さもその時間の一部として受け入れているかのようだ。

ノルマンディーのこの街でも、クリスマス休暇の喧騒の中でテラス席は特別な賑わいを見せている。

その光景を眺めながら、私もヴァン・ショーをひと口飲んだ。

白い息と共に湯気が空へ溶けていく。

冬の冷たさが、笑い声やスパイスの香りで少し和らぐ気がした。

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