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見た目に騙されてた「きのこ界の貴公子」

秋になるとスーパーマーケットの野菜売り場は、きのこ一色

きのこ好きな私にはたまらない季節

いつもなら素通りしていた黒々としたキノコの群れが、この日は違った運命を辿ることになった。

私の中の「きのこ図鑑」に、新しいページが加わる予感もないままに。

「これ見ると子供の頃を思い出すんだ」

夫の突然の一言に、私は目を丸くした。

クロラッパタケ、

フランス語では、トランペット・デ・モール(trompette des morts)

直訳すると「死のトランペット」。

…。

その不穏な名前と、まるで深い森の中から這い出してきたかのような漆黒の姿に、私はずっと距離を置いていた。

でも、夫の目には懐かしい思い出の品なのだという。

「小さい頃、家族で広葉樹林に行ってはこのキノコを探したんだ」 その言葉に、私の中の好奇心が揺れ動いた。

まるで暗闇の中から誘いをかけてくるような、このミステリアスな姿に、初めて魅力を感じる。

「え?美味しいの?」

「今夜、作ってあげるよ」

その夜、私たちの食卓では小さな冒険が始まった。

友人からいただいたエイヒレが主役のはずだった夕食に、思いがけないゲストが加わることになる。

シンプルな調理法を選んだ。

バターで優しく炒めたクロラッパタケに生クリームとエシャロットを加えただけの即興のソース。

炒めているだけなのにもうキッチンに思いもよらない香りが立ち昇った。

もう、この香りが最高!

出来上がったソースをオーブンから出したてのエイヒレにそっとかける。

エイヒレの焼き具合もいい感じに出来た!

最初の一口で、私の偏見は完全に覆された。

見た目からは想像もできない芳醇な香り。

舌の上で踊るような心地よい食感。

鼻から抜ける深い風味。

これはまさに、きのこ界の貴公子

これは事件だ。

翌日のランチは、夫の提案でオムレツの具材として「死のトランペット」

バターと紫玉ねぎとキノコ界の貴公子を炒めます!
焦がして見た目は悪いけど…。夫と半分こして食べた。美味しかった!

すっかり私は黒い見た目と不気味な名前に騙されていた

私の中の「きのこ図鑑」が、また一つ書き換えられた瞬間だった。

見た目で判断してはいけない—この古い教訓を、思いがけないキノコとの出会いが、また一つ証明してくれたのだ。

そして、私は勝手に彼を「きのこ界の貴公子」と呼ぶことにした。



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