常識がないと生きられない地球星人
『コンビニ人間』を読んで村田氏の他の作品にも興味を持った。
そこで、今回は村田沙耶香『地球星人』を読んだ感想を記す。
『コンビニ人間』に似ている
地球はまるで工場だ。そして、人間は地球という工場の部品。労働か出産をしない部品は是正される。『コンビニ人間』を労働の話とすれば、本作品は出産の話だ。出産(および育児?)は本来は苦痛な行為。そんな苦痛な行為を快い行為と勘違いさせるべく、性行為や恋愛が美化されているのかもしれない。
地球星人になりたいけれどなれない奈月と、地球星人を嫌悪し「宇宙人の目」を持ちたがる智臣(奈月の夫)の構図が、『コンビニ人間』の古倉と白羽に重なった。本作では、そこに由宇(奈月の従兄弟)が加わっていいスパイスになっている。
自分は何星人なのか
自分は地球星人になりたいとは思わない。逆に、なりたくないとも思わない。ただ、地球星人らしさを強要してくる地球星人のことを軽蔑している。自分が地球星人あるいは宇宙人に「なる」のではなく、あくまでも自分は自分でしかなく、その自分を他者がどう呼ぶのかというだけの話。
地球星人と呼ばれようが、宇宙人と呼ばれようがどうでもいい。自分が自分の好きなように生きることを邪魔してくる人がいなければ、それでいい。地球星人らしさを強要してくる地球星人を自分の世界から排除したいということ。思考過程や理想の世界は異なるが、地球星人を自分の世界から排除したいという結論は智臣や白羽と同じだった。
常識の威を借る地球星人
奈月と智臣に圧倒された地球星人の由宇が、同じく地球星人の陽太と感覚(常識)を共有して安堵する様子を見たときの奈月の心境。地球星人は宇宙人に囲まれて常識が通用しないと不安になる。同じ常識をもつ地球星人に出会った由宇は「あぁ、よかった。自分は普通なんだ。間違っていないんだ。オカシイのはアイツらの方だ」と思ったのだろう。
地球星人はすぐそこに
人が常識にすがる場面は日常でも頻発していそうだ。
「A子の彼氏、働かないでパチンコばかりしてるらしいよ。ひどくない?」と噂話をする人を考えてみる。
「ふーん。まぁ、A子がいいならいいんじゃない?」
とか
「働かないのがひどいの?パチンコがひどいの?それとも両方を同時に満たすとひどいの?」
と返せば相手は困惑するだろう。
通用すると思っていた常識が通用しなかったからだ。
「えぇ〜!最低。そんなダメ男とは別れた方がA子のためでしょ」
など、常識人ぶった返答をすればやっと相手は安堵する。
地球星人は常識というルール(多数が共有している規範)がなければ物事の善し悪しを判断できないほどに、短絡的で主体性を欠いた浅はかな生命体。自分の判断軸に自信がないのか、有象無象の浅はかな生命体に非難されるのが嫌なのか。なにが、地球星人をそうさせるのかは不明だ。
余談:人間は「かわいい生き物」
村田氏はインタビューにて智臣を次のように表している。
よくわかる。
さらに言えば、白羽は普通からの逃避、智臣は普通の否定が強いと感じた。白羽は社会的死を望んでいた一方で、智臣はあえて普通ではないことをやろうとしていた。
また、同インタビューからは村田氏は登場人物のようには苦しんでいないことがわかる。他方で人間を「かわいい生き物」と評してどこか俯瞰しているような、どこか小馬鹿にしているような印象を受けた。作中で描かれている性的暴行には怒りを感じるものの、白羽らとは違って人間社会に対する怒りはないらしい。この点においては古倉や奈月っぽさがある。自分は村田氏よりも、より感情的に人間社会を捉えているようだ。