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あなた

長い眠りから目覚めた時、あなたは私の隣から姿を消していた。この部屋の中には、あなたの香りが微かに残っていて、それ以外には、あなたに関する私の記憶だけが、深い森の中の樹に刻まれた動物の爪痕のように、確かに残っているだけだった。

私はベッドから身を起こし、部屋の中を見渡す。やはりあなたの姿はどこにもなかった。

昨日、思いもよらないことであなたを傷つけていたのか、それとも、だんだんと私に対する不満が募っていて、コップから突然水が溢れ出すように、今朝、限界を迎えたのか、私はあれこれと考えを巡らせずにはいられなかった。だけど、いくら考えたところで、あなたがなぜ去ったのか、私に分かるはずも無かった。

ひょっとして、もともとあなたは存在しなかったのかしら。そんな気もして来る。形ある確かな存在など無くて、あなたについての記憶さえあれば、それで良いのかもしれない。

あなたが居なくなったことで、突然私の世界が揺らぎ出す。目の前の世界から色が損なわれてしまうような感覚に陥りそうになる。

そのとき、あなたは口笛を吹きながらタバコの箱を片手に帰ってきた。

「早くこっちに来て。」

そう言いかけて、微笑むだけの私。

あなたを失ってしまったら、そんなことを考えるのはいつからだったかしら。


P.S. センスを感じます。こんな部屋に住みたいです。写真使わせて頂きました。ありがとうございます。



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