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[まとめ] スタートアップスタジオとは何者か。

新規事業に関わっていたり、あるいは興味を持たれているみなさんであれば、ここ最近スタートアップスタジオ(ベンチャービルダーとも呼ばれます)とは何か、という説明を見聞きする機会も増えてきていると思います。

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GSSN(Global Startup Studio Network:世界から厳選されたスタートアップスタジオが集まるコミュニティ、2020年7月現在は10ヵ国24社で構成される)におけるGSSN Leadersの一人として活動していたこともあり、日本では最もスタートアップスタジオ事情に詳しいはず(!)なので、得てきた知見をもとにスタートアップスタジオとは何者か説明していきたいと思います。

具体的には、GSSNが昨年発行したホワイトペーパー「The Rise of Startup Studios」や、海外のスタジオメンバーがMediumに投稿している内容から一部引用する形で、スタートアップスタジオに関する説明をしたいと思います。情報源が海外なので英語も多く、そして長いですがお付き合いください!早速いきます。

1. スタートアップスタジオとは

GSSNではこのように定義しています。

>>>In other words, startup studios are factories that produce startups. In exchange for human and financial capital, studios retain a portion of the equity in the companies they create.(「The Rise of Startup Studio」)

意訳を挟みますが、要はスタートアップスタジオとは、まるで「工場が製品を製造していく」かのように次から次へとスタートアップを生み出していくスタートアップの工場である、という定義です。そして主なビジネスモデルとしては、スタートアップを生み出すために投下した労働および資金の対価として、生み出したスタートアップの株式の一部を保有する、というものです。

2.スタートアップスタジオの主なビジネスモデル

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(上図:「The Rise of Startup Studio」より)
具体的には、スタートアップスタジオが連れてきた起業家と、アイデア、ネットワーク、資金、スキルやノウハウを結集させて、プロダクトの開発検証を繰り返し、その後、スピンオフさせる形でスタートアップを設立(スタジオは株式を一部保有)。その後生み出されたスタートアップは、スタジオからは一定の独立性を維持する形で外部の資金も取り入れながら成長し、スタートアップの企業価値が高まった段階で、スタジオは何らかの形でExit(保有株式を売却)することで利益を獲得する、というのが一般的なビジネスモデルです。

3.スタートアップスタジオと、似たプレイヤーとの差異


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(上図:「The Rise of Startup Studio」より)
株式売却による投資利益獲得を前提にすると、ベンチャーキャピタルやアクセラレーターと似ている、と感じる方もいるかもしれません。これからは業種の垣根もますます消えていくと思いますが、スタートアップスタジオと、似たプレイヤーとの違いを示したのがこちらです。あくまで一般化した内容ですので、当然スタートアップスタジオによってはScalingにも関与するケースもありますし、逆にVCでも立ち上げ初期から起業家と併走するケースもあると思います。

i.スタートアップスタジオは起業家や企業にとってのCo-Founder

要はスタートアップスタジオは、課題の発見や定義という初期の段階から起業家と伴走していくということで、スタートアップスタジオは起業家にとっての「Co-Founder」であり「Founders behind Founders」であるとも言えます。スタートアップスタジオはこの「Found」する(Foundの言葉のイメージは0→1)という行動に高い価値があると考えています。実際、スタートアップスタジオの文脈では「Entrepreneur」よりも「Founder」という単語がよく登場します。これは「Zero to Exit」という考え方が根底にあるためです。

ii.ピーター・ティールやマーク・アンドリーセンが出資するAtomic

実際、最も成功しているスタートアップスタジオの一つと言えるAtomicは「We Found and Fund companies」や「Co-Found with us」というメッセージを打ち出しています。ちなみにAtomicは、ご存知の方も多いかと思いますがPeter Thiel(ピーター・ティール)とMarc Andreessen(マーク・アンドリーセン)が初期に投資家として入っています(なので?オフィスはFounders Fundの近く)。そして実はウェルネスD2Cブランドのユニコーン「Hims」やCo-livingを手掛ける「Bungalow」の創業者がAtomic(パートナーのAndrew Dudum)であることを知っている方は多くはないのでは。ユニコーン(クラス)のスタートアップの裏には、スタートアップスタジオが存在しているということです。

Atomicのステイトメントを見ても明らかで、次のような言葉が並びます。

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・「未来は見つけるものではなく、つくるものである(だから自らスタートアップを生み出す)」。
・「VCだがVCではない。Investorであると同時にCo-Founderである」
・「VCのようにピッチを受けない」
・「アクセラレーターのようにアプリカント(応募者)を受け付けない」。

iii.スタートアップスタジオは汗を流す

パリを拠点とするスタートアップスタジオeFounders共同創業者のThibaudが2015年にMediumで示したチャートもわかりやすいかもしれません。成長初期フェーズのスタートアップに対する価値の提供を、縦軸を労働時間、横軸を資金量として示したものです。要は、スタートアップスタジオは資金も出すがそれ以上に創業期から関わり続けて汗を流すのだというものです。

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4.スタートアップスタジオにも違いがある

世界には現在500以上のスタートアップスタジオがあると言われており(2020.7月 Enhance発表)各社が試行錯誤しながら自社にとって最適な運営を模索しています。例えば以下のような論点が挙げられます。

・エンジニアやデザイナーのギルド機能を内製するか、もしくは外部連携か
・スタジオの運営資金はどう拠出するか
・立ち上げるビジネスの業種やバーティカルを絞るのか
・事業のアイデアは外部から調達するのか、内部でのみ生み出すのか
・スタートアップ立ち上げ時、スタジオと起業家の出資比率の方針
・スタートアップの資金調達はどこまで関わるのか、などなど

i.誰が事業アイデアを持ち寄るのか

事業アイデアの源泉はどうするのかという問いはスタートアップスタジオ界隈でよく議論されることではありますが、例えばeFoundersの共同創業者であるQuentinは一例としてこのように整理しています

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このチャートの向かって左の「Internal Ideation」とは、まずスタジオ内でアイデアを温め、その後にそのアイデアを事業化して牽引してくれる起業家を探しにいく、というプロセスを指します。その対になる「External Ideation」の代表格として、コピーキャットとしての批判を受けたこともある「Rocket Internet」(日本でも話題になったのでロケットインターネットが最も知名度があるかもしれない)を「Execution Engines」と表現しているのもおもしろいなと。

5.データで見るスタートアップスタジオ

GSSNは定期的にスタートアップスタジオ各社にデータサーベイを実施しており、第一弾の調査結果が今年の初めに発表されました。詳細に関しては非公開なので共有できないのが残念ですが、ごく一部のデータは公開されていますのでそこからいくつかご紹介したいと思います。

当時GSSN加盟のスタートアップスタジオ中の23社と、限られた母数に対する調査ではありますので、あくまで参考情報としての扱いです。紫色は調査に参加した23社全ての平均、黒色は設立が2017年以降のスタジオ9社の平均、緑色は設立が2016年以前のスタジオ14社の数値を示します。

i.スタートアップ設立時の平均出資比率
全体平均でスタートアップスタジオは36%、スタートアップの起業家/CEOは47%。

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ii.スタートアップスタジオから生み出されたスタートアップの総数
全体で415社。女性による起業はそのうち40%。

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iii.スタートアップスタジオが生み出したスタートアップのポートフォリオのバリュエーション
全体の平均値で$148M。全体の中央値で$47M。

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以上、スタートアップスタジオの輪郭を知るための参考程度と考えていただければ幸いです。別の投稿で、世界のスタートアップスタジオ各社の特徴等について共有していきたいと思います。

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